「腸閉塞と大腸がんには何か関係があるの?」
「腸閉塞が大腸がんの前兆って本当?」
大腸がんは食生活の偏りや肥満、飲酒、喫煙などがリスクとなって発症するがんです。腸閉塞と大腸がんは、一見すると関係ないように見えるかもしれませんが、実は密接な関係にあります。今回は大腸がんと腸閉塞にどのような関係があるのか、腸閉塞を予防するにはどうしたらよいのかなどについて詳しく見ていきましょう。
目次
1章、大腸がんとは
大腸がんは、がんのなかでも患者数が多いことで知られています。厚生労働省と国立がん研究センターが2022年に発表した「2019年の全国がん登録」によると、部位別に見たがんの罹患数は男女で以下の通りでした。
〈男性〉
2位:大腸がん
3位:胃がん
〈女性〉
2位:大腸がん
3位:肺がん
男女どちらでも2位にランクインするほど、大腸がんは罹患数が多いがんなのです。では、大腸がんとは具体的にどのようながんなのでしょうか。
1-1、結腸や直腸にできるがんのこと
大腸がんは、結腸や直腸にできるがんのことです。結腸がんや直腸がんのように、部位に応じて呼び名が使い分けられることもあります。日本人で多いのは、S状結腸と直腸にできるがんです。
大腸がんは正常な粘膜から発生することもありますが、良性のポリープ(腺腫性ポリープ)ががん化して発生することもあります。患者数が比較的多いがんで、2019年に日本全国で大腸がんと診断された方は155,625人でした。
1-2、大腸がんで見られる症状
大腸がんができてすぐのうちは、ほとんど症状がありません。そのため、大腸がんができていることに気が付かず過ごしている方も意外と多いのが実状です。症状が進行すると、次のような症状が見られることがあります。
・貧血
・便秘
・下痢
・便が細くなる
・排便してもすっきりしない
・お腹が張る
血が混じる血便や下血は、大腸がんでとくに見られやすい症状の一つです。ただし、血便や下血は痔でもよく見られるため、「大きな病気ではなく痔だろう」と思い込み放置してしまう方が少なくありません。
血便が見られた場合には、必ず検査が必要となります。検査は、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を受けていただくことが大事です。
大腸がんが進行すると、がん組織によって腸が狭くなります。便が細くなったり便秘や下痢になったりするのは、そのためです。また、排便しても便が残りやすくなるため、残便感があったりお腹が張ったりなどの症状も見られます。
便秘・下痢・残便感などの排便習慣の変化が見られる場合にも、必ず大腸内視鏡検査を受けていただくことをお勧めいたします。
2章、大腸がんが進行すると腸閉塞になることがある
初期の段階では症状がほとんどない大腸がんですが、進行すると腸閉塞を起こすことがあります。便が出なくなり、腹痛や嘔吐の症状が見られるようでしたら、腸閉塞が起こっているかもしれません。
2-1、腸閉塞とは
腸閉塞とは、腸が詰まることで腸の内容物が肛門側に移動できなくなった状態のことです。通常、私たちが口から摂取したものは、食道や胃、十二指腸や小腸、大腸を通って肛門に到達します。消化吸収されて残ったかすが便として排泄されるのです。
しかし、腸が詰まると、便が移動できなくなります。症状としては、吐き気や嘔吐、腹痛や腹部膨満感、便秘、ガスが出なくなるなどが見られることが一般的です。腹痛に関しては、強い痛みが出る方もいればそうでない方もいます。
2-2、大腸がんで腸閉塞になる理由
大腸がんで腸閉塞になることがあるのは、成長したがん組織が腸を完全にふさいでしまうためです。最初のうちは便が細くなったり便秘や下痢になりやすくなったりするだけですが、がん組織が大きくなると腸閉塞にまで発展することがあります。腸閉塞を起こした場合、状況によっては手術が必要です。
3章、大腸がんで腸閉塞になるのを防ぐ方法
腸閉塞になると、嘔吐や腹痛などつらい症状に悩まされることになります。症状によっては緊急手術も必要です。大腸がんが原因で腸閉塞になるのを防ぐ方法には、おもに次の3つがあります。
3-1、初期症状のうちに治療を始める
早期の段階では症状がないため難しいかもしれませんが、進行すると便に血が混じったり便の表面に血がついたりするようになります。この時点で大腸がんかもしれないと疑うことができれば、腸閉塞まで発展するのを予防できるでしょう。
大腸がんは、早期発見・早期治療ができれば治りやすいがんと言われています。最初はどうしても痔と勘違いしやすく治療開始が遅れやすいため、痔のように見える場合でもできるだけ医療機関を早めに受診して検査を受けることが大切です。
3-2、日々の便通をチェックする
便秘や下痢が続いているときは、腸閉塞の前段階になっているかもしれません。普段より排便の回数が減ってきていたり下痢が増えたりしている場合は、要注意です。
人によって適切な排便回数は違うので一概に「毎日排便がないなら便秘です」とは言えませんが、普段の排便回数と比較して少ないようでしたら早めに担当医に相談しましょう。
下痢は部分的な腸閉塞が生じているときに起こります。便秘になっていることにすぐ気がつけるようにするためにも、排便の記録を日頃からつけておくのをおすすめします。下痢が続く方はすでに閉塞が起きている可能性があるので、こちらも早めに相談するようにしてください。
当クリニックでは、消化器の専門外来を土曜日・日曜日も含め毎日行っています。下記より24時間WEBにて予約が可能です。
電話での予約は下記より承っております。
3-3、便秘にならないように気をつける
腸が狭くなっている状態で便秘になると、便が腸で詰まってしまう可能性があります。便秘をしやすい方は、食物繊維を多く摂ったり朝起きたらコップ1杯の水分を摂るようにしたりなど、便秘にならないように対策をしましょう。
4章、大腸がんの検査方法
大腸がんが疑われる場合は、本当に大腸がんなのかを確定するために検査が必要です。
4-1、直腸指診
直腸指診は、肛門に指を入れて直腸内にしこりや異常がないかを調べる検査のことです。検査を行うにあたって特別な器具は必要ないため、すぐに検査を行えます。ただし、指が届く範囲しか検査できないことがデメリットです。
4-2、注腸造影検査(バリウム検査)
肛門からバリウムと空気を注入し、X線をあてて大腸の様子を見る検査です。大腸がんがどこにできているのか、どれくらいの大きさなのかを正確に調べることができます。大腸の中をしっかり観察するために、下剤の服用が必要です。
4-3、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)
肛門から内視鏡スコープを挿入して、大腸全体の様子を観察する検査です。大腸がんが疑われる場合は、がんかどうかを確定するために、まず大腸内視鏡検査が行われます。病変が見つかった場合は、その場で一部の組織を採取して詳しい検査を行います。
大腸内視鏡検査については、「無痛大腸内視鏡検査について内視鏡専門医が解説」で詳しく解説していますので、ぜひご参考にしてください。
4-4、CT検査・MRI検査
CT検査は、X線をあてることで人体を輪切りにした画像を作って病変を詳しく観察する検査です。比較的短い時間で検査できます。
MRI検査は、磁気を利用して体内を任意の方向から画像にする検査です。どちらも大腸がんがほかの臓器に転移していないか調べるときに行われます。
4-5、PET検査
放射性ブドウ糖を注射して細胞にどれくらい取り込まれるのかを見ることで、がん細胞がどこにあるのかを検出する検査です。1回の検査で全身の様子を調べられます。
4-6、腫瘍マーカー検査
腫瘍マーカーとは、がん細胞やがんに反応した細胞によって作られるたんぱく質などのことです。大腸がんがある場合、CEAやCA19-9を測定します。腫瘍マーカーだけでがん細胞の有無を確定することはできないため、あくまでも補助的に活用する検査です。
5章、大腸がんの治療方法
大腸がんの治療は、がんの性質や広がり具合(転移の状態)、体の状態などに応じて個々に適した治療を行うことが一般的です。
大腸がんの治療としては以下のようなものが挙げられます。
5-1、内視鏡治療
内視鏡を使ってがん病変を切除する治療方法です。がんが転移している可能性が低く、切除が可能な部位にできている場合は、内視鏡治療が適応となります。
ただし、大きすぎる大腸がんは切除できません。開腹手術と比べると傷が小さいため患者の負担が少ないことが特徴です。
大腸がんの内視鏡治療は、大腸内視鏡的粘膜下層剥離術(大腸ESD)という方法で治療を行います。大腸ESDについては、下記の大腸ESDについてのページで詳しく解説していますので、ぜひご参考にしてください。
5-2、外科治療
内視鏡治療での切除が難しい場合は、外科治療を行います。お腹を切り開く開腹手術とお腹を開かない腹腔鏡を使用した手術のどちらかが行われます。お腹を切り開く場合には、患者の負担は大きくなります。直腸のがんの場合には、ロボットを使用したロボット手術が行われることもあります。
5-3、薬物療法
薬物療法は、大腸がんの再発を防いだり、症状を緩和したりするために行われる治療です。いわゆる化学療法と言われるものです。治療に使われる薬は複数あり、治療の目的やがんの状態、臓器の機能などに合わせて適切な治療薬を選択します。
5-4、免疫療法
免疫の力でがんを攻撃する治療法です。私たちの免疫は、体にできたがん細胞を排除するために日々働いています。
しかし、がん細胞は免疫機能を弱めようとする力をもっているため、免疫が正常に働かなくなることが少なくありません。免疫療法は、免疫ががん細胞を排除しようとする働きを保つことでがん細胞を攻撃します。
5-5、放射線治療
放射線治療は、大腸がんの再発を抑えたり吐き気や痛みなどの症状を緩和したりするために行う治療です。骨盤内での再発を抑えるために行われるものを補助放射線治療、転移による痛みや吐き気などを抑えるものを緩和的放射線治療と言います。
6章、腸閉塞が起きたらすぐに受診しよう
腸閉塞が自然治癒することはほとんどありません。腹痛や便秘、吐き気やお腹の張りなどの症状が見られたら腸閉塞を疑ってなるべく早めに受診するようにしましょう。
6-1、大腸がん以外の病気でも腸閉塞は起こる
腸閉塞の原因となるのは、大腸がんだけではありません。
・腸のねじれ
・腸管が狭くなっている
・腸重積
・癒着
・腸の一部が突出している
このように、大腸がん以外にも原因があります。腸閉塞が起こったからといって必ずしも大腸がんがあるわけではありません。
6-2、腸閉塞を放置すると命に関わることもある
腸閉塞になると腸の一部で血液の循環が悪化することがあります。腸閉塞によって腸に血液が流れなくなると、腸が壊疽を起こしたり腸壁が壊死したりすることがあります。時には腸が破裂して腹膜炎やショックが起こり、治療が遅れれば命に関わることもあるため注意したいものです。腸閉塞の症状が出ている場合はなるべく早めに治療を受けましょう。
まとめ
大腸がんが進行すると、がん細胞によって腸が塞がり、腸閉塞を起こすことがあります。便やガスが出ず、腹痛や吐き気が出ている場合は、腸閉塞を疑いましょう。放置していても症状が良くなることはありません。大腸がんになった場合は日頃から便通をよくチェックし、異常を感じたら早めに医療機関を受診しましょう。
大腸内視鏡検査に関しては当クリニックにて24時間WEBにて予約が可能です。
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