
肛門がんとは
肛門がんは、比較的珍しい腫瘍の一つと言われており消化管がんの約2%が肛門がんであると報告されています。肛門がんは、ほとんどが直腸と肛門の境目および肛門縁という部位から発生する腫瘍です。
世界的には肛門がんは増加傾向で、良性の痔と同じような臨床症状などを示すためその診断は比較的難しいと考えられています。
肛門がんには、下記のような種類の腫瘍があります。
- 扁平上皮がん(Squamous cell carcinoma)
- 腺がん(Adenocarcinoma)
- 基底細胞がん(Basal cell carcinoma)
- 黒色腫(Melanoma)
- 小細胞がん(Small cell carcinoma)

発生の割合は上から順に少なくなっていきますので、一番扁平上皮がんが肛門がんの中では多い腫瘍と言われており肛門がんの約80%を占めます。
肛門がんのリスクファクター
肛門がんの発生には、多くの要因が関わっていると考えられています。とくに社会的要因や文化的な要因が極めて重要なリスクファクターと考えられています。
肛門がんのリスクファクター
- ヒトパピローマウイルス(HPV;Human papillomavirus)
- HIV(Human immunodeficiency virus)
- タバコ
- 男性同士の性交渉
- 炎症性腸疾患(IBD;Inflammatory bowel disease)
肛門がんの主なリスクファクターは上記のようなものとなっています。一つ一つ解説していきたいと思います。
① ヒトパピローマウイルス(HPV;Human papillomavirus)
ヒトパピローマウイルスは、2本鎖DNAがんウイルスの1種で粘膜から粘膜・皮膚から皮膚へと感染するウイルスです。とくにオーラルセックス(Oral sex)・通常の性行為(Vaginal intercourse)・肛門性交(Anal intercourse)を介して感染することが多いと考えられています。
HPVワクチンやコンドームの使用は、ヒトパピローマウイルスの感染予防になると考えられています。ただしコンドームの使用に関しては、身体の全てを覆うわけではないので完全な予防になるわけではないので不完全な予防と思ってください。
② HIV(Human immunodeficiency virus)
HIVは、肛門がんのリスクファクターとして非常に重要なものと考えられています。HIVに感染した場合には、肛門がんの発生率が約30倍高くなると報告されています。HIV患者の肛門がん発生率は、抗ウイルス療法でも減らすことは難しいと考えられています。
③ タバコ
タバコによる喫煙も肛門がんのリスクファクターと報告されています。喫煙を続けると肛門がんの再発率が高くなることや死亡率も高いと報告されています。
④ 男性同士の性交渉
男性同士の性交渉である肛門性交を行っている場合には、肛門がんの発生率は通常よりも20倍高くなると報告されています。これは、肛門性交を行うことでHIVの感染率が高くなってしまうことが要因となっています。また、HPVの感染率も高くなってしまいます。
肛門がんは女性に多いのか?
2019年に報告されたものでは、男性と女性の世界での肛門がんの発生数は下記のようになっており、男性よりも女性に多い疾患と考えられます。
[世界での肛門がんの発生数]
- 女性:620,000人
- 男性:70,000人
ただし肛門がんの発生数は、発展途上エリアにて約70%の発生率となっているのが現状でHPVワクチンの投与を行うことでその発生率を減らすことが出来るのではないかと考えられています。
当院でもHPVワクチンのご相談は受けておりますので、お気軽にご相談ください。
女性で肛門がんのリスクが高くなる要因としては以下のようなものが挙げられます。
- 複数の性行為パートナーの存在
- 若年からの性行為
- 包茎の性行為パートナーの存在
上記の場合には、HPVの感染の確立が高くなることが予想され結果的に肛門がんのリスクが高くなると考えられています。
肛門がんの症状
肛門がんの症状としては、下記のようなものが挙げられる。
- 肛門からの出血
- トイレットペーパーに血が付く
- 腹痛
- 肛門痛
上記のような症状が主なものですが、これは痔や裂肛などの良性の疾患でもみられる症状であるため症状から肛門がんの診断を行うことは困難と考えられています。
また、無症状のことも多いためリスクファクターに当てはまる場合には積極的に検査を受けることが重要となります。
肛門がんの検査方法
肛門がんの検査方法としては下記のようなものが挙げられます。
- 触診・肛門鏡
- 大腸内視鏡検査(大腸カメラ)
- CT検査
- MRI検査
- PET-CT検査
肛門がんの診断は上記の検査を組み合わせて、確定診断を行います。一つ一つ解説していきたいと思います。
① 触診・肛門鏡
触診や肛門鏡を使用することで腫瘍の存在を知ることが出来ます。必要に応じてその場で組織を採取するなども行います。
② 大腸内視鏡検査(大腸カメラ)
大腸内視鏡検査を行うことで、肛門がんを画面を通して直接観察することが可能です。大腸内視鏡検査の利点としては、肛門がんが直腸のどこまで進展して進行しているか確認することが出来ます。また、直腸内でスコープを反転して肛門部を直腸側から詳細に観察することもできます。その場で、正確に組織検査ができるという利点もあります。


一部直腸まで進展している肛門がん
③ CT検査
CT検査でとくに造影剤を用いることで、肛門がんを画像化することができます。肛門がんにより壊死化された組織がhypo-attenuated necrotic mass(低減衰壊死腫瘍)として明瞭にみられることもあります。
またCT検査により、周囲のリンパ節転移や遠隔転移の診断にも役立つ情報を得ることができます。
④ MRI検査
MRI検査では、肛門がんの診断とステージ分類の診断に役立つ情報を得ることができます。MRI検査では、腫瘍の周囲臓器への進展や浸潤などの評価にも役立ちます。
⑤ PET-CT検査
PET-CT検査は、肛門がんの発見やステージ分類の診断に役立ちます。また、肛門がん治療後の再発の診断にも使用される検査です。
肛門がん発見の感度はCT検査が67%、一方PET-CT検査は99%と報告されており、優れた検査と考えられています。
肛門がんの治療
肛門がんの治療には、下記のようなものが挙げられます。
- 内視鏡治療
- 外科治療
- CRT(放射線化学療法)
肛門がんの治療は、早期のものであれば内視鏡での治療が可能なこともあります。進行した肛門がんの治療は、外科治療やCRTでの治療となります。ステージにもよりますが、肛門がんの標準治療は、CRTが一般的となっています。
大腸カメラの予約方法
肛門がんが疑われる場合やリスクファクターに当てはまり気になる方は、大腸内視鏡検査を受けられることが重要です。
一度当院にご相談ください。
参考文献
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- Mahmud A, Poon R, Jonker D. PET imaging in anal canal cancer: a systematic review and meta-analysis. Br J Radiol 2017; 90: 20170370
施設紹介
東京千住・胃と大腸の消化器内視鏡クリニック 足立区院 >>
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