「肝硬変になるとどのような症状が出るの?」
「肝硬変の予防法や治療法が知りたい」
肝硬変の患者さんは、日本全国に約40~50万人いる と言われています。決して少ない数ではありません。
しかし、肝臓は沈黙の臓器とも呼ばれており、障害が起きてもなかなか症状が現れないことで知られています。肝臓の障害にいち早く気づくためにも、肝硬変で見られる症状について知ってしておくことが大切です。
肝硬変になると食道に静脈瘤ができます。悪化すると出血をして吐血となることがあります。そのため予防的に内視鏡での検査や治療が必要となることがあります。
今回は、肝硬変で見られる症状や、肝硬変の予防法や内視鏡検査・治療法について詳しく見ていきましょう。
1章、肝硬変とは
肝硬変とは、肝臓内に繊維組織が増えることで肝臓が硬くなる病気のことです。肝臓全体がゴツゴツしたような見た目になり、大きさも小さくなります。
1-1、肝硬変になる原因
肝硬変を引き起こす原因にはさまざまなものがあります。ここでは、代表的な5つの原因について見ていきましょう。
B型肝炎ウイルス
B型肝炎ウイルス(HBV)とは、肝臓に感染することでB型肝炎を引き起こすウイルスのことです。血液や体液を介して感染します。B型肝炎が慢性化すると、肝臓の線維化が起こって肝硬変となるのです。
C型肝炎ウイルス
C型肝炎ウイルス(HCV)は、C型肝炎を引き起こすウイルスのことです。C型肝炎に感染すると約70%の方が持続感染者となり、肝炎を引き起こして肝硬変を招きます。
日本には約100万人ものC型肝炎ウイルスの感染者がいると言われていますが、感染に気づかず治療を受けていない方が少なくありません。
飲酒
長期間にわたって過度な飲酒を続けると、アルコール性肝障害を発症しやすくなります。アルコール性肝障害が起こっても初期のうちは自覚症状がほとんどありませんが、進行すると肝硬変に移行することがあるため注意が必要です。
遺伝
肝硬変を発症する要因には、遺伝も関係しています。東京大学の研究によって、TNFSF15やPOU2AF1と呼ばれる遺伝子の個人差が原発性胆汁性肝硬変を発症することが明らかになりました。
生活習慣の乱れ
食生活が乱れたり運動不足が続いたりすると、非アルコール性脂肪肝炎になる可能性があります。非アルコール性脂肪肝炎とは、ほとんど飲酒をしていないのに起こるアルコール性肝炎に似た病態のことです。進行すると肝硬変に移行することがあります。
1-2、肝硬変の分類
肝硬変は、重症度によって分類することができます。分類は、Child-Pugh(チャイルド・ピュー)分類を用いることが一般的です。
Child-Pugh分類では、症状や検査結果をもとに点数化し、点数の合計点によってグレードを判定します。5~6点ならGradeA(軽度)、7~9点ならGradeB(中等度)、10~15点ならGradeC(高度)と判定されます。
1点 | 2点 | 3点 | |
---|---|---|---|
脳症 | ない | 軽度 | ときどき昏睡 |
腹水 | ない | 少量(1~3L) | 中等量(3L~) |
血清ビリルビン値(mg/dL) | 2.0未満 | 2.0~3.0 | 3.0より高い |
血清アルブミン(g/dL) | 3.5より高い | 2.8~3.5 | 2.8未満 |
プロトロンビン活性値(%) | 70より高い | 40~70 | 40未満 |
1-3、代償性肝硬変と非代償性肝硬変の違い
肝硬変には、症状の程度によって代償性肝硬変と非代償性肝硬変の2種類にわけられます。代償性肝硬変とは、肝硬変の初期症状が出ている段階のことです。ほとんど自覚症状がないことが多いのですが、人によっては疲労感や食欲不振などが出ることもあります。
非代償性肝硬変とは、肝硬変の症状が中期から末期まで進行した状態のことです。中期から末期まで症状が進むと、黄疸や腹水などの症状が見られることがあります。
2章、肝硬変で見られる症状
肝硬変の初期症状として代表的なのが、疲労感や食欲不振などです。ただし、これらの症状が出たとしても「疲れているだけに違いない」「風邪を引いたのかな」と、肝硬変であることに気が付かない方も多くいます。
さらに肝硬変が進むと、次に挙げるように多くの症状が出るため、「何かがおかしい」と気づくケースが多いようです。肝臓は沈黙の臓器であるため、何か症状が出ているときにはすでに肝臓の障害が進んでいる場合があります。
2-1、くも状血管拡張
くも状血管拡張とは、首や前胸部、頬などに赤い斑点ができる症状のことです。小さな血管が拡張することで、赤い斑点ができます。赤くなっているところを圧迫すると色が消退するのが特徴です。くも状血管拡張は胃にもできることがあり、消化管出血を起こす場合もあります。
2-2、手掌紅斑
手のひらの両側に赤い斑点ができる症状のことです。くも状血管拡張と同様に、圧迫すると赤みが消退します。親指と小指の付け根によく見られます。
2-3、腹水
腹水とは、文字通りお腹に水が溜まった状態のことです。肝硬変になると、肝臓が硬くなる影響で血液が肝臓に入りにくくなります。その影響で、血液が染み出してお腹に溜まってしまうのです。また、アルブミンの量が減ることにより水が溜まりやすくなることも関係しています。
2-4、腹壁静脈拡張
へその周りの静脈が太く拡張している状態のことです。門脈圧が亢進するためへそ周辺の静脈が拡張し、ミミズ腫れのように血管が浮き出たような状態になります。
2-5、黄疸
黄疸は、ビリルビンと呼ばれる色素が血液中で増加することで、皮膚や白目が黄色くなる症状のことです。肝機能が低下すると、ビリルビンの代謝が行えなくなります。黄疸にともない、かゆみを生じることもあります。
2-6、羽ばたき振戦
まるで鳥が羽ばたくように手が震える症状のことです。羽ばたき振戦が起こる原因の一つとして、肝性脳症が挙げられます。肝性脳症は、肝臓の働きが落ちることでアンモニアが脳に溜まるものです。これにより、神経の働きが低下して羽ばたき振戦を起こすことがあります。
2-7、こむらがえり
こむらがえりとは、不随意に起こる骨格筋の痙攣のことです。とくにふくらはぎでよく症状が見られます。肝硬変になると、末梢神経障害や電解質異常が起こりやすくなるため、こむらがえりになりやすくなるのです。
2-8、女性化乳房
女性化乳房とは、男性の乳房が女性のように大きく発達することです。女性ホルモンは男性にもあります。肝臓の機能が低下すると女性ホルモンを分解する働きが衰えるため、女性化乳房が見られるようになるのです。
2-9、睾丸萎縮
肝臓で女性ホルモンを分解する力が低下することにより、睾丸萎縮が見られることがあります。
3章、肝硬変でみられる食道静脈瘤
肝硬変では、食道の静脈が張れてしまうことで静脈瘤(じょうみゃくりゅう)ができます。食道静脈瘤とはどのようなものなのか解説していきたいと思います。
3-1、食道静脈瘤とは
食道静脈瘤は、食道の粘膜ないし粘膜下に存在する静脈が腫れていく状態のことをいいます。肝硬変により肝臓が硬くなることで、肝臓への血液の流れが悪くなることで食道方向に大量の血液の流れができるために静脈が腫れていってしまいます。
3-2、食道静脈瘤破裂
肝硬変の状態が悪化すると、さらに多くの血液が食道方向に流れてくるため食道静脈瘤が太くなってしまいます。静脈瘤が太くなると胃からの胃酸の刺激などの外的刺激が加わることで血管が破れて破裂するリスクが高くなります。破裂した場合には、大量の出血となり吐血をきたします。
a:食道内に出血を認める b:静脈瘤からの出血
3-3、吐血をした場合は緊急内視鏡検査
吐血をした場合には緊急で内視鏡検査が必要となります。静脈瘤からの出血が見られる場合には、止血術が必要となります。内視鏡での止血は、ゴムバンドを使用した結紮術ないし硬化剤を使用した硬化療法があります。緊急での止血の場合には、結紮術で行うことが多いです。
食道静脈瘤に関しては「食道静脈瘤(esophageal varices)」のページもご参考にしてください。
また、食道静脈瘤と診断された場合には、定期的に内視鏡検査を受ける必要があります。内視鏡検査については、下記より予約をお取りください。
電話での予約は下記より承っております。
4章、肝硬変の検査方法
肝硬変かどうかを診断する方法には、いくつか種類があります。ここでは、代表的な方法について見ていきましょう。
4-1、血液検査
肝臓の状態は、血液検査でもある程度わかります。ASTやALTの値が高ければ、肝臓に何か異常がある可能性が高いでしょう。正常時よりもこれらの値が高い場合は、病気が進行している可能性を考えてより精密な検査を行います。
4-2、画像診断
腹部エコー検査やCT、MRIなどを使って肝臓に異常がないかを調べる検査です。肝硬変になると肝臓の大きさが小さくなり、表面がゴツゴツとした感じになるため画像でも判断することができます。
4-3、腹腔鏡検査
肝硬変だと確定診断をするためには、腹腔鏡検査を行うことが多いでしょう。腹腔鏡をお腹の中に入れることで、肝臓の様子を直接観察する検査です。観察するだけでなく、肝臓の組織を採取することもできます。
5章、肝硬変の治療方法
肝硬変そのものを改善し、元通りの肝臓に戻す方法は残念ながらありません。そのため、肝硬変の進行を食い止め、症状が少しでも楽になるように治療を進めていくことが一般的です。
5-1、抗ウイルス薬の投与
B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスが原因の場合は、抗ウイルス薬を使用します。B型肝炎ウイルスにはエンテカビルやテノホビル アラフェナミドフマル酸塩などを使うことが多いでしょう。
C型肝炎ウイルスにはソホスブビル・レジパスビル配合錠やグレカプレビル・ピブレンタスビル配合錠などを用います。
5-2、分岐鎖アミノ酸の補充
肝硬変になると分岐鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)が不足するため、これらを補う治療が行われます。分岐鎖アミノ酸は、人の体内では作れない必須アミノ酸です。不足すると肝性脳症を起こしたりたんぱく質を合成する働きが落ちたりします。
5-3、腹水の除去
腹水が見られるときは、水分を取り除く治療が行われます。利尿薬を使ったりアルブミン製剤の点滴を行ったりして腹水を取り除く方法を取ることが多いでしょう。それでも改善しない場合は、お腹に直接細い針を刺して腹水を外に排出します。
6章、肝硬変を予防するために気をつけるべきこと
肝硬変は、症状の進み具合によっては治らないこともあります。一生の付き合いとなることもあるため、まずは日々の生活で肝硬変にならないように気をつけることが大切です。
6-1、バランスの良い食事を摂る
肝臓に負担をかけないようにするためには、栄養バランスの整った食事を心がける必要があります。必要な栄養素を摂ることで、肝機能の回復が期待できるのです。腹水があるときは塩分摂取量を控え、肝性脳症があるときはアミノ酸製剤を使って不足しやすいアミノ酸を補いましょう。
6-2、定期検診を受ける
肝臓の機能が落ちても初期の段階ではほとんど自覚症状がありません。そのため、定期検診を受けることにより早い段階で肝臓の異常に気がつけるようにすることが大切です。
6-3、ワクチンを摂取する
B型肝炎は、ワクチンによって予防することができます。B型肝炎ウイルスに感染すると慢性肝炎となり肝硬変を引き起こすこともあるため、ワクチン摂取をしておきましょう。
現在、日本ではB型肝炎ワクチンは定期接種に含まれているため、通常は1歳になるまえに摂取が終わります。
まとめ
肝硬変になっても初期症状はほとんどありません。人によっては疲労感や食欲不振などが見られることがあります。
ある程度症状が進むと、腹水や黄疸などが出てきます。症状が出てきたころには肝障害が進んでいることが多いため、気になる症状があるときは早めに医療機関を受診することが大切です。
肝硬変になると完治することは難しいため、定期検診を受けるなどして症状の悪化を防ぎましょう。
当クリニックでは、病院と連携して肝障害・肝硬変についての内視鏡診療を行っています。診察希望の方は下記より予約にお進みください。
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