「下痢が続いていてツライ」
「下痢が治らないけど何か悪い病気なのかな?」
「検査を受けた方がいいのかも・・・」
というようなことはないでしょうか?下痢症の中でも、2~3週間以上にわたって下痢症状が続く慢性下痢症には様々な病気が隠れていることがあり得ます。慢性下痢症には、細菌感染症、寄生虫感染、炎症性腸疾患、腫瘍などが原因で持続した下痢症状が続くことがあります。
中でも一番気を付けなければならないのは、がん罹患数第1位となっている大腸がんです。大腸がんは、初期の症状はほとんどないため進行してくると血便や便秘などの症状がでてきます。慢性的な下痢症状も大腸がんの存在を示すサインの一つです。
今回は、他の疾患も含め大腸がんの下痢症状について解説していきたいと思います。本記事を読むことで大腸がんの症状や必要な検査などに関して理解を深めていただければと思います。
目次
1章、下痢症について
下痢症は下記のように大きく2つに分けられます。
・慢性下痢症
上記2つの下痢症について解説していきたいと思います。
1-1、急性下痢症
急に症状がでる下痢症状は、吐き気・嘔吐・腹痛などの症状を伴うことが多くその多くはウイルス性の胃腸炎であることが多いです。その他には、細菌性胃腸炎、食中毒、お薬による副作用などのご病気であることもあります
1-2、慢性下痢症
下痢症が4週間以上続く状態を「慢性下痢症」と呼びます。ただし2~3週間程度続く場合は、慢性下痢状考えた方がよいでしょう。慢性的に長く続く下痢症状は、急性下痢症とは区別して原因を考える必要があります。
どなたでも一生に一度は経験するであろう、下痢症ですが個人的には、1週間以上続いてくるようであれば何か問題があると考えた方が良いと思います。
慢性下痢症には、放置しておくと命に関わるような重大なご病気が隠れている場合があります。そのため適切に検査を行い、適切な処置および治療を行うことが必要となることがあります。
2章、慢性下痢症にはどんな病気があるの?
慢性下痢症には下記のようなご病気などの可能性があります。
・寄生虫感染
・腫瘍
・炎症性腸疾患
・過敏性腸症候群
・セリアック病
・アルコールによる影響
などのご病気が挙げられますが、まだまだ原因としては多くのものがあります。慢性下痢症とは言っても様々なご病気がありますが上記のご病気に関して、一つ一つ解説していきたいと思います。
2-1、細菌性腸炎
細菌性腸炎には様々な細菌が原因となり腸炎が起こります。具体的には下記のような細菌による感染が起こります。
・サルモネラ菌
・腸炎ビブリオ
・リステリア
・細菌性赤痢
・カンピロバクター
などの細菌により腸炎が起こり得ます。とくにこの中で急性から慢性の1~2週間程度下痢症状が続くことでクリニックに来院されるご病気としては、カンピロバクターによる腸炎が見られることが多いです。
カンピロバクター腸炎
若い方で意外と多いのは、カンピロバクター腸炎という細菌性の腸炎です。カンピロバクター腸炎では、慢性の下痢症状が続くことがあります。慢性下痢症状の他には、下記のような症状が出ることがあります。
・腹痛(右の下の方の痛み)
・血便
カンピロバクター腸炎は、患者さんの話を良く聞くと1週間ほど前に居酒屋や焼き鳥屋などに行って鶏肉を食べてきたということが多いです。カンピロバクター腸炎は、調理が不十分であったものや生の鶏肉などを食べることで感染することがあります。カンピロバクター腸炎は、年間600万人以上の患者さんがかかるご病気と言われています。
カンピロバクター腸炎の検査は便培養検査を行い菌の確認を行いますが、菌がなかなか確認できないこともあります。その場合には、診断を行うために大腸内視鏡検査を行うこともあります。検査を行うとほとんどの方が大腸の一番奥の盲腸にあるバウヒン弁という小腸と大腸の境目の臓器に炎症や潰瘍などがみられることが多いです。直接大腸を見ることで診断をすることができます。
私が研修医の頃、若い20代の女性の患者さんで下痢・血便が1か月ほど続いており便培養では菌を発見することができず、大腸内視鏡検査を行うとバウヒン弁に炎症や潰瘍を認めた方がいました。直接腸液と大腸の粘膜を培養検査に出したところカンピロバクターと診断されました。
カンピロバクター腸炎は、ギランバレー症候群という末梢神経が傷害され、手足がしびれたり、呼吸が自力でできなくなるというような病気になることがあります。そのため、けっして軽視できないご病気の一つです。
カンピロバクター腸炎は、基本的には自然治癒することが多いご病気です。ただし、患者さんによっては、抗生物質を投与する必要もあります。胃腸症状がひどい場合には、水分が摂れず点滴が必要になることもあります。また、ギランバレー症候群などを発症しないかどうかなどの経過を見る必要があるご病気です。慢性下痢でお悩みの方は、鶏肉を食べてないかどうか心当たりはないでしょうか?
2-2、寄生虫感染
寄生虫感染では、様々な寄生虫が原因となり下痢症状が起こります。具体的には下記のような寄生虫による感染が起こります。
・クリプトスポリジウム
・トキソプラズマ
・サルコシスティス
・旋毛虫症(せんもうちゅう)
・有鉤条虫(ゆうこうじょうちゅう)
寄生虫が腸管に感染すると下痢症状の他に発熱・腹痛・倦怠感などの症状を伴うことがあります。
2-3、腫瘍
腫瘍が原因で慢性下痢症となることがあります。主な原因としては下記のようなものが挙げられます。
・大腸ポリープ(直腸絨毛腺腫)
・膵がん
大腸がんや大腸ポリープでは、下痢症状の他に血便が見られたりすることがあります。このような症状は、大腸がんや大腸ポリープの場合、進行しないとみられないことが多いです。初期の場合には、ほとんど症状が見られないことが多いため注意が必要です。
膵がんでは、下痢症状の他に背部痛や黄疸などの症状が見られることがあります。膵がんは、進行が早く悪性度の高い腫瘍のため上記の症状が見られた場合には、早めに検査を受けていただくことをお勧めいたします。
2-4、炎症性腸疾患
炎症性腸疾患としては下記のご病気が主なものとなります。
・クローン病
多くの若い方が罹る可能性のある潰瘍性大腸炎について解説していきたいと思います。
潰瘍性大腸炎とは?
潰瘍性大腸炎は、若い方の慢性下痢の原因の一つとして考えなければならない。
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に炎症が持続して起こるご病気です。潰瘍性大腸炎では、下痢が慢性的に続くことがあります。悪化してくると下痢と一緒に粘液性のある便や血が混ざり血便となることがあります。
潰瘍性大腸炎は、基本的には内服治療である程度寛解といって小康状態を保つことができますが、重症化してお薬の効果がでなくなった場合には外科手術が必要となってしまうこともあります。潰瘍性大腸炎が疑われた場合には、適切に検査・治療を行なうことで、重症化を防ぐことが大切です。
2-5、過敏性腸症候群
20代や30代といった若い方の場合には、お腹の痛みを伴い下痢・やわらかい便・便秘などが繰り返し起こるIBS(アイ・ビー・エス)という過敏性腸症候群というご病気であることが多いです。ストレスや食べ物などが主な原因ではないかと言われています。
歴史上で有名な人物ですと徳川家康や西郷隆盛などもIBSであったのではないかと言われています。IBSであれば生活習慣を改めたりお薬を飲んだりなどして治療を行います。ただし、IBSと診断されていた方が実際に検査をすると潰瘍性大腸炎や腫瘍など他の疾患と診断されることも多々あります。そのため下痢症状が続く場合には安易にIBSと診断してしまうのではなく、一度は大腸内視鏡検査を行うことが大切です。
2-6、セリアック病
セリアックとは、ギリシャ語に由来する「お腹」を意味する言葉です。セリアック病は、小麦などに含まれるグルテンにより十二指腸や空腸を中心とした上部消化管に炎症が起こることで主に消化器症状が起こり得ます。セリアック病の症状としては下記のようなものが挙げられます。
・鉄欠乏性貧血
・腹満感
・体重減少
・抑うつ症状
・皮膚症状
・骨粗鬆症
・関節炎
などのような症状が起こり得ます。全ては小麦などに含まれるグルテンが原因となり自己免疫様の炎症が起こることで生じます。
セリアック病は、小麦を主食とする欧米(有病率約1%)に多く見られますが、日本(有病率約0.05%)などのアジアでは少ないご病気です。ただし、日本においてはセリアック病の認知度が非常に低いため医師でも診断ができないことが多いのが現状です。そのため慢性下痢症状の症状の患者さんを過敏性腸症候群と診断してしまっている可能性もあります。
セリアック病では、HLA-DQ2とHLA-DQ8という遺伝子を持っている患者さんが発病しやすいと言われています。日本人ではこの遺伝子を持っている人は少ないと言われています。日本人にセリアック病が少ないのはこのためと考えられています。
遺伝子的な要因の他には小麦の消費量がセリアック病と関係があると考えられています。日本人の小麦消費量は、年間約43kg(食パン約2.4枚/日)と報告されています。一方、セリアック病の報告が多い欧州では下記のように日本よりもはるかに多い小麦消費量となっています。
個人小麦消費量(年間), kg | |
---|---|
イタリア | 135.84 |
フランス | 116.10 |
イギリス | 102.67 |
セリアック病の発症率は、小麦消費量と比例する可能性が高いと考えられています。今後も小麦消費量が増加してくると考えられる日本においても注意すべきご病気の一つです。
小麦を使用した食品を摂取すると下痢症状などが続くようであれば一度専門外来で相談していただくことをお勧めします。
2-7、アルコールによる影響
飲酒を日常的にしている場合には、慢性的に下痢が続くことがあります。アルコールを摂取すると、以下のようなことが原因で下痢になります。
・膵機能低下による影響
一つ一つ解説していきたいと思います。
浸透圧による影響
アルコールを大量に摂取すると浸透圧の影響で腸管での水分の吸収が上手くいかなくなります。そのため便の水分量が多くなり水様性の下痢となります。
膵機能低下による影響
長期のアルコール摂取は、膵臓にダメージを与え慢性膵炎となります。慢性膵炎となると膵臓からの消化酵素の分泌量が低下するため脂質・たんぱく質の分解・吸収が不十分となってしまいます。そのためいわゆる脂肪便となってしまい、下痢状の便となります。
その他のアルコールの腸管への影響
アルコール摂取による影響は下記のようなものもあります。
・腸内細菌叢変化への影響
・腸管粘膜の炎症
アルコールは、上記のような影響を腸管にもたらします。とくに腸管粘膜の炎症は、顕微鏡的大腸炎(microscopic colitis)として病理組織学的にも確認することができます。顕微鏡的大腸炎になると、慢性の水様性下痢となり体重減少や腹痛などの症状を伴うことがあります。
40代以降の大酒家は大腸内視鏡検査を!
40代となると消化管の機能が低下していきます。暴飲・暴食をすると、顕著に下痢・軟便などになる頻度が高くなってくると思われます。当クリニックに来院される患者さんでは、慢性の下痢症状が続いているという方が多くいらっしゃいます。話を聞くと毎日飲酒しているとか、ほとんど外食だという方が非常に多いです。
下痢症状の原因は暴飲・暴食ではありますが、多くの方は大腸がんや大腸ポリープがあるのではないかということが心配となり検査を受けていただくことが多いです。実際にこのような患者さんを検査すると、ほとんどの方に大腸ポリープが見つかります。
中には40代でも大腸がん(その多くは早期の大腸がんです)が見つかることもあります。40代・50代で下痢症状がある方は、下痢の原因が恐らく暴飲・暴食であろうと自己判断せず一度専門外来でご相談していただくことをお勧めします。大腸内視鏡検査は、静脈麻酔を使用すれば全く痛み無く無痛で検査を終えられます。
当クリニックでは、24時間WEBで大腸内視鏡検査の予約が可能です。
電話での予約は下記より承っています。
3章、慢性下痢症の検査・診断
慢性下痢の検査・診断としては下記のようなことを行います。
・触診
・血液検査
・便培養検査
・便潜血検査
・胃内視鏡検査
・大腸内視鏡検査
一つ一つ解説していきたいと思います。
問診
問診では、下記のことを中心に情報を聞き取ります。
・病歴や既往歴
・便の状態や臭い
・旅行の有無や食事の状況
触診
触診では、お腹の張りやどの部分に痛みがあるのかなどを中心に実際にお腹に触れることで観察をします。
血液検査
血液検査では、Hbで貧血の状態をみたり、白血球やCRPなどで炎症の程度をみます。セリアック病の診断では、Tissue Transglutaminase IgA antibody(tTG-IgA)を使用しますが、日本ではこの検査ができる施設は限られています。
便培養検査
便を採取して培養検査を行うことで下痢の原因となっている細菌の検査を行います。
便潜血検査
便中に血液が混じっていないかを確かめることで大腸からの出血がないかどうかの検査を行います。
胃内視鏡検査(胃カメラ)
胃内視鏡検査を行い食道・胃・十二指腸に病変などがないかどうかを調べます。セリアック病が疑われる場合には、十二指腸の粘膜の組織検査を行います。
大腸内視鏡検査(大腸カメラ)
大腸内視鏡検査を行い大腸内に病変がないかどうかを調べます。下痢の原因の診断のために組織検査を行うことがあります。
4章、慢性下痢症には大腸内視鏡検査は必須
40歳以上で下痢症状があり1年以内に大腸内視鏡検査を受けられていない方に関しては、必ず大腸カメラを受けいただくことをお勧めします。軽い下痢症状の患者さんなどでも大腸がんが発見されることもあります。
大腸内視鏡検査というと一昔前は、ハードルが高い検査というイメージがあり医師も下痢止めなどを処方してお茶を濁すことも多かったです。しかしながら、現在では大腸内視鏡検査はさほどハードルの高い検査と言えなくなってきています。内視鏡スコープの性能も良くなり、静脈麻酔を使えば痛み無く無痛で検査を行うことができます。また、日本の内視鏡医は良く熟練された医師が多いというのも安心です。
大腸がんの早期発見のために
大腸がんを早期で発見して早期で治療するためには、大腸内視鏡検査を受けていただくことが非常に大事です。他の検査で代わりになることはできません。また検査時に大腸ポリープを切除することで、大腸がんの予防になるとも言われていますので勇気を出して一度ご相談していただけたらと思います。
40代以降になってくると、大腸以外の腫瘍などが原因で下痢症状が出ることもあり得ます。とくに気を付けたいのが膵臓です。大腸内視鏡検査を行い何もなかったと喜んでいたら、膵臓に腫瘍があったということも見かけます。下痢が続く場合には全身のチェックが必要となることもあり得ます。
また、様々なご病気がでてくるためお薬を複数飲むようになってくるかと思います。お薬によっては下痢の原因になることが多々あります。その代表的なものがバイアスピリンやプラビックスなどの抗血小板薬や胃薬であるランソプラゾールなどです。下痢症状がある方は、受診の際に必ずお薬手帳を持参の上、医師・看護師の問診を受けていただきたいと思います。お薬手帳に関しては皆さん忘れがちですので、ぜひスマホで写メを取っておくなどしていただけますと安心かと思います。
まとめ
今回は、慢性の下痢症状について解説をしました。本記事のポイントとしては下記のようになります。
・大腸がんや大腸ポリープで下痢症状となることがある
・セリアック病は日本では非常に少ないが増えてきている
・膵臓癌で慢性下痢症となることがある
・慢性下痢症の場合は大腸内視鏡検査を受けることが大事
下痢症状が続く場合には、以上のことを理解して対処していただければと思います。当クリニックでは、24時間WEBにて消化器専門外来および大腸内視鏡検査の予約が可能となっております。
電話での予約は下記より承っています。
※2022年4月25日に公開した記事ですが、リライト記事に必要な文言等を追記、その他の部分も修正して2023年4月3日に再度公開しました。
・小野洋嗣ら, 終末回腸の腫大したPeyer 板上の広範囲に潰瘍を形成したカンピロバクター腸炎の2例, 日本消化器内視鏡学会雑誌 2020; 62: 484-9.
施設紹介
東京千住・胃と大腸の消化器内視鏡クリニック 足立区院 >>
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