「がんの心配をするにはまだ早い」
「まあ自分は大丈夫でしょう」
「がんは高齢者がなる病気」
このように思っていませんか?胃がんは、高齢者に起こるものと考えがちですが、若い人にも起こりえる恐ろしい病気です。胃がんのなかでも『スキルス胃がん』は20~40代の若い女性に起こりやすく、がんのせいで子育てや仕事に支障をきたしている人たちが大勢います。決して他人ごとではありません。
胃がんの予防のためには、定期的な胃内視鏡検査(胃カメラ)が必要です。この記事を読んで、人生の若い時期を健康で楽しく過ごせるように、今から対策しておきましょう。本記事ではスキルス胃がんの症状や原因、予防法について分かりやすく解説していきます。
目次
1章、そもそも胃がんとは?
国立がん研究センター「最新がん統計のまとめ」によると、胃がんになる人の数は大腸がん・肺に続いて第3位と非常に多い国民病の1つです。日本人であれば、誰もが胃がんになるリスクがあると考えられます。
そんな胃がんについて解説していきたいと思います。
1-1、胃がんとは
胃の内側にある壁の粘膜がなんらかの原因でがん細胞となり、外側に向かって広がっていくのが胃がんです。がんが大きくなってくると血液やリンパの流れにのって全身へがんが拡散され、他の臓器に転移することもあります。
1-2、進行すると転移をする
胃がんは、進行すると周囲のリンパ節・肝臓・肺・脳・骨などにがんが広がるます。このがんの拡がりを「転移」と言います。
がん細胞が胃の外側に出て腹膜に付着し、お腹の中でがん細胞が飛び散るように広がることを腹膜播種(ふくまくはしゅ)といいます。腹膜播種は胃がんにおいて頻度が多い転移のひとつです。
腹腔内でがん細胞がばらばらに散ったり転移をした場合には、胃に限定した治療ではなく、全身的な治療が必要となってしまいます。
2章、20代でも発症する『スキルス胃がん』
「スキルス」とはギリシャ語で「硬い腫瘍」という意味があります。スキルス胃がんは、硬がん、びまん性胃がん、linitis prastica型胃がん、BorrmannⅣ 型胃がんなどとも呼ばれれています。その名の通り胃の壁を固くさせながら染み込むように広がっていくのが特徴です。
一般的な胃がんは、腫瘤や潰瘍が形成されるため目視で病変を見つけられます。しかしスキルス胃がんの場合は、胃の壁の中をじわじわ進行するため見た目では分かりにくいです。
スキルス胃がんは、進行するスピードも速いため発見した時にはすでに他の部位へ転移した状態になっていることも少なくありません。
また胃がん全体の患者数は、男性の方が多いのに対してスキルス胃がんの患者数は、圧倒的に女性が多くなっています。スキルス胃がんは、高齢者だけでなく若い年齢層(20歳~30歳代)でも発症する病気と言われています。若い方でも気を付ける必要があります。
2-1、発症しやすい年齢は?
ちょうど子育てや仕事を頑張る働き盛りの世代です。
スキルス胃がんになってしまった場合、子供と一緒に過ごせる貴重な時間を失ってしまったり、やりたかった仕事を諦めなければいけなくなったりと、ライフスタイルに大きな影響を受ける可能性が出てきます。
具体的には下記のようなことがライフスタイルの変化として想定されます。
・結婚しようと思っていた彼に別れを告げられた
・子供の保育園や学校の行事に参加できず成長をそばで見守れない
などが考えられます。
なかには家族を残して自分の親より先に命を落としてしまうケースもあり、非常に残酷な病気なのです。
2-2、スキルス胃がんは何が原因?
一般的な胃がんはヘリコバクター・ピロリ(通称ピロリ菌)などが原因となって発症しますが、スキルス胃がんは明らかな原因が分かっていないのが正直なところです。
仮説としては、何らかの遺伝子変異や血縁者にスキルス胃がんの既往があることなどが考えられています。
原因がはっきりしない以上、定期的に検査をして調べることで、出来るだけ早く病気を見つけて治療を開始するのが最も効果的な対策になるでしょう。
2-3、どんな症状があるの?
スキルス胃がんの症状は、一般的な胃がんと比べて大きく変わりありません。特徴的な症状があるわけではないため、症状だけでは胃がんの種類まで予測するのは難しいでしょう。
ここでは「初期」と「進行期」に分けて、それぞれの症状を詳しく解説していきます。
初期
初期には症状がないことがほとんどです。もし症状がある場合は以下の症状が現れます。
・胃のムカつき
・下痢
・体重の減少
当たり前かもしれませんが、胃がんは胃の機能が障害されるところから始まる病気です。胃の調子が悪くなると食べ物を消化し、便として排泄するまでの一連の流れに支障をきたすため、上記のような症状となって表れるのです。
日常の生活でちょっと体調が悪いときに起こりそうな症状ばかりのため、「ちょっとお腹の調子が悪いのかな?」くらいに感じる程度でしょう。この段階で胃がんを疑う人はかなり少ないはずです。
進行期
初期からさらにがんが拡大した進行期に入ると、医療知識のない一般の人でも「どこか病気なんじゃないか?」と疑うような症状が出現します。
具体的には以下のような症状があります。
・吐き気、嘔吐
・吐血
・下血
・黒い便が出る
・腹水の貯留
痛みや嘔吐、下血などぱっと見で分かる自覚症状のため、胃がんの初期症状と比べて明らかに体に何か起こっているのが分かります。これらの症状が出ている場合はすでに胃がんが体の中で広がってかなり進行している可能性がりあります。早急に消化器科や胃腸科を受診しましょう。
3章、スキルス胃がんの検査は?
検査にはいくつか種類があります。複数の検査を実施し、医師が検査結果を総合的に分析して診断します。
検査を受けるにあたって「痛くないかな?」「苦しくないかな?」「仕事に支障は出ないかな?」と心配になるかもしれませんが、病院スタッフによる丁寧な説明と検査後のフォローを行うため、あまり心配しすぎずに検査を受けてみましょう。
3-1、血液検査
採血をして血液中の腫瘍マーカーの数値を確認します。腫瘍マーカーとは、がん細胞が増殖するのに伴って発生する物質のことです。胃がんの腫瘍マーカーは「CEA」や「A19-9」といわれるもので、これらの数値が上昇していると胃がんの疑いが出てきます。
しかし胃がんなら必ずしも数値が上昇しているというわけではなく、あくまで大まかな目安にしかすぎません。腫瘍マーカーの上昇は、かなり進行した状態でないと異常値として判定できないこともあります。また、採血だけで胃がんと断定することはできないため、他の検査も行い、総合的に判断します。
3-2、胃内視鏡検査(胃カメラ)
胃内視鏡検査とは上部の消化管を検査するもので、よく胃カメラと呼ばれています。口から内視鏡(カメラ)を入れて、食道・胃・十二指腸までの範囲をモニターで見て調べる検査です。
もし消化管内にがんが疑われる所見があれば、そのまま組織を採取して病理検査で詳しく調べたり、悪い部分を切除したりすることができます。他の検査で胃がんの可能性があると考えられた場合に胃カメラを行い、確定診断として用いられることが多いです。
スキルス胃がんの場合は、がんが粘膜の下にもぐっていることが多いため胃カメラで胃の粘膜の検査をしても分からないことがあります。検査の際にちょっとした胃粘膜の赤みやただれなどがあった場合には、組織を採取したり時間を空けて再検査などが必要となることもあります。
胃カメラについては、「漫画でわかる!胃内視鏡検査」で詳しく解説していますので、ぜひご参考にしてください。
3-3、レントゲン検査(バリウム検査)
上腹部のレントゲン写真を撮影し、画像で腫瘍や臓器の状態を観察する検査です。胃の変形などがある場合はレントゲン検査が有効になります。しかしスキルス胃がんは上記で解説したように、胃の内壁からじわじわ染み込むように進行するため、レントゲンでは病変が見えにくいです。
とくに初期のスキルス胃がんはレントゲンで発見するのは困難です。患者さんが受ける苦痛は少ないかもしれませんが、確定診断には至りません。
レントゲン検査を応用した造影剤を飲んで撮影するバリウム検査は、比較的スキルス胃がんの診断に適しています。バリウム検査では、胃カメラと異なり胃全体を撮影することができるため胃の壁が硬くなっているような部分があればスキルス胃がんの診断ができることがあります。
ただしバリウム検査でのスキルス胃がんの診断も完璧なものではありませんので、定期的な検査や症状がある場合には積極的に検査を受けることが大事です。また、バリウム検査では胃カメラと異なり組織を採取することができないというデメリットもあります。
3-4、CT・MRI
輪切りにするような形でお腹の中を撮影する検査です。CTの場合はX線、MRIの場合は磁気を利用して撮影します。がんの進行により胃の壁が厚くなっていたり、お腹に水が溜まっていたりすると画像に写るため、がんの有無や進行の程度が分かります。
また腹部全体を撮影することで、がんの範囲や転移の有無を確認することが可能です。もし転移が見つかりがんの範囲が広がっていた場合は、腹部以外の場所を追加で検査したり治療方針を変更したりすることもあります。
4章、スキルス胃がんの予後はどのくらい?
スキルス胃がんに限定した予後ははっきりとしたデータがないため不明ですが、ある報告では5年相対生存率は10%~30%と報告されています。胃がん全体で見るなら5年相対生存率は男女合わせて66.6%(国立がん研究センターより)となっていますので、スキルス胃がんの悪性度の高さがよく分かります。
胃がんの予後を左右する一番重要なカギとなるのは、どれだけ早い段階で発見できるかということです。胃がんは進行度によって、ざっくり1~4のステージに分類されています。例えばステージ1の段階で発見した場合の5年相対生存率は90%以上です。早く発見できた人ほど胃がんに打ち勝つことができます。
そのため日頃の定期健診や症状がでたらすぐに検査を受けて、早期に発見することが非常に大事なこととなります。
5章、スキルス胃がんはどんな治療をするの?
胃がんの治療法は大きく分けてこちらの4つです。
・放射線治療
・内視鏡治療
・外科的治療(手術)
それぞれ解説していきます。
5-1、化学療法(抗がん剤)
点滴や飲み薬で抗がん剤を投与してがん細胞を小さくする治療方法です。麻酔をかけたり体に傷ができたりする手術よりは簡易的に実施できます。しかし副作用が出現する恐れがあり、症状には個人差があります。
例えば同じ薬を使っても全く副作用のない人もいれば、吐き気や脱毛、味覚障害など様々です。
5-2、放射線治療
放射線をがん細胞に照射して治療する方法です。放射線治療は様々な部位のがんの治療に用いられますが、胃がんの場合、あまり効果的な治療成績が得られないことや、胃周囲の臓器が放射線に弱いことから、補助的な治療として活用されることが多いです。
副作用として照射部位の皮膚トラブルや胃の不快感が起こることがありますが、抗がん剤治療と比べると軽症なことが多いです。
5-3、内視鏡治療
口から内視鏡スコープを入れて消化管内を観察し、モニターで見ながら病変を切除する治療方法です。手術と比べて痛みが少ない、治療後の回復が早い、麻酔で受ける体への負担が少ないなどのメリットがあります。
しかしこの方法は早期の胃がんに対してのみ行うことができる方法のため進行した胃がんに対しての治療の適応はありません。日頃から定期検診を受けて早く胃がんに気づくことが大切です。
5-4、外科的治療(手術)
外科的治療は、いわゆる手術でがんを切除する方法です。小さい傷で済むようにお腹に数カ所の穴を開けて行う腹腔鏡手術や、お腹を切り開いて腫瘍にアプローチする開腹手術などがあります。
術後は胃に負担がかからないように、消化の良いお粥から食事が始まり、徐々に固形物を食べられるように慣らしていくことが多いです。
6章、すぐできる3つの予防法
誰でもすぐにできる3つの予防法はこちらです。
・ストレスを溜めない
・定期検診を受ける
どれも日常生活と深く関わる項目です。
それぞれ解説していきます。
6-1、刺激物をとらない
過度な刺激物の摂取は控えましょう。具体的には、辛い食べ物、塩分の濃い食べ物、脂っこい食べ物、アルコールなどが当てはまります。また食事の際は満腹まで食べるのではなく腹八分目を意識することで胃にかかる負担を軽減し、胃がんのリスクを下げられます。
「辛すぎ」「しょっぱすぎ」「食べすぎ」というように、"〇〇過ぎ"にならないように心がけましょう。
6-2、ストレスをためない
ストレスを溜め続けると胃がんのリスクが高まります。ストレスがかかると胃酸の分泌が増え、胃壁にダメージを与えてしまうからです。
胃はストレスに弱い臓器で、あなたも一度は学校や仕事のことを考えて胃が痛くなった経験があるのではないでしょうか。上手くストレスを発散して気持ちを落ち着けながら過ごしましょう。
6-3、定期健診
最も効果的なのが定期検診です。なぜなら胃がんは初期症状がほとんどないため多くの人が受診せず、がんが進行した状態で発見されて手遅れとなってしまいやすい病気だからです。とくにスキルス胃がんの場合は進行速度が早いため、気づいた時には転移していることもあります。
知らない間にがんが進行してしまうのを防ぐためには、症状の有無に関わらず定期的に検診で調べておくのが有効です。
定期的な検診で早期発見を心がけるようにしましょう!
まとめ
これまでスキルス胃がんについて解説してきました。本記事の重要な部分をまとめると次のとおりです。
・進行速度が速く、初期症状はほとんどない
・内視鏡で組織を採取して確定診断する
・早く発見するほど生存率が高い
・胃がんの進行を防ぐ最も有効な方法は定期検診
症状を自覚するようになったころに受診しても、すでに治療不可能な状態になっているかもしれません。スキルス胃がんは、初期症状を自覚しにくい上に進行スピードが速いため、自力でがんに気づいて受診するのは相当難しい話です。
若くて健康な今、行動しておくことをお勧めします。ぜひ定期的に検査を受けてチェックするよう心がけましょう。
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※2022年6月19日に公開した記事ですが、リライト記事に必要な文言等を追記、その他の部分も修正して2023年3月17日に再度公開しました。
・Furukawa H, et al. A rational technique for surgical operation on Borrmann type 4 gastric carcinoma. Br J Surg 1988; 75: 116-9.
・Maehara Y, et al. Lower survival rate for patients with carcinoma of the stomach of Borrmann type IV after gastric resection. Surg Gynecol Obstet 1992; 175: 13-6.
・Arveux P, et al. Prognosis of gastric carcinoma after curative surgery: a population based study using multivariate crude and relative survival analysis. Dig Dis Sci 1992; 37: 757-63.
・Sawai K, et al. New trends in surgery for gastric cancer. Jpn J Surg Oncol 1994; 56: 221-6.
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