クローン病と肛門の病気
クローン病は、口から肛門までの消化管に広く炎症が起こる疾患で難病指定にされている慢性疾患です。特に、小腸や大腸に多く炎症が起こり、粘膜に潰瘍が起こるのが大きな特徴です。主に、腹痛や下痢、下血、体重減少、発熱などの症状が現れ、様々な合併症が伴うことがあります。
クローン病による肛門病変
クローン病による肛門病変として、切れ痔、痔ろう、肛門周囲膿瘍、肛門皮垂、肛門潰瘍、肛門膣瘻などがあります。最初に合併しやすい病変を一次病変と呼び、切れ痔や肛門潰瘍などが挙げられます。一次病変に、管状のトンネル形成(瘻孔)や細菌感染が起こることで、痔ろう、肛門狭窄、肛門周囲膿瘍などを合併します。これを二次病変と言います。
クローン病を疑われたら
痔ろうなどの肛門病変からクローン病が疑われる場合は、大腸内視鏡検査を実施することをお勧めしております。
クローン病による肛門病変の治療方法
まずはクローン病の治療を行い、症状を改善していきます。主に、薬物療法を行い、炎症が治まってから手術治療を検討します。クローン病の症状を改善せずに痔ろうの治療を行っても回復が遅れるため、まずはクローン病の症状を改善していきます。
肛門尖圭コンジローマ
ヒトパピローマウイルスによる感染で、多くは性行為中に感染する性感染症です。肛門周囲にイボ状の突起が現れます。皮膚粘膜の傷から感染することが多く、小さい突起は肛門周囲や性器周囲にも出てきます。性感染症のため、必ずパートナーと同時に治療をすることが大切です。イボ状の小さい突起は痛みや痒みなどの症状はありませんが、治療をせずに放置すると突起の数が増えたり大きくなったりするほか、肛門内部に広がることもあるため、しっかりと治療をする必要があります。
がん化の可能性
尖圭コンジローマの原因であるヒトパピローマウイルスには、型が100種類以上もあります。そのうち、がん化するリスクがあるものもあり、高リスク型と低リスク型に区別されます。尖圭コンジローマの大半は低リスク型(HPV6・HPV11)とされるため、ほとんどのケースでがん化することはありませんが、高リスク型が原因で子宮頸がんになるケースもあります。稀に、高リスク型(HPV16)でボーエン様丘疹症(ようきゅうしんしょう)を発症することがありますが、この場合は尖圭コンジローマと類似するため、正確な鑑別及び診断が必要となります。ヒトパピローマウイルス(HPV)の型は、検査で容易に判別することができるので、肛門周囲の突起が気になる場合はなるべく早めに医療機関を受診してください。
肛門尖圭コンジローマの感染経路
尖圭コンジローマは、性行為の際に感染する性感染症です。梅毒や淋菌感染症、性器クラミジア感染症などと同様に、ご自身の感染が発覚したらパートナーも感染している可能性が高いとの認識が必要です。性感染症は、通常の性行為だけではなくアナルセックスやオーラルセックスなど種々の性行為に及んだ人から知らず知らずのうちに感染が拡大していきます。性感染症は自然治癒できないため、正確な診断と適切な治療を積極的に行うことで感染拡大を阻止できます。
肛門尖圭コンジローマの症状
ヒトパピローマウイルスに感染してから潜伏期間は約3週間から8ヶ月程です。その後発症しますが、初期では自覚症状がないため、そのまま性行為に及び無自覚に感染を拡げる事態が多く発生します。このように、肛門尖圭コンジローマは潜伏期間が長く、自覚症状が分かりにくく知らぬ間に感染を拡げていしまう恐ろしい疾患です。肛門周囲にできた小さいイボ状の突起は、白色やピンク、黒、茶色と様々です。病気が進むにつれて、突起は大きくなって数も増え、やがて鶏のトサカやカリフラワーのように固まりが出来てきます。自然治癒しにくいため、感染を拡げないようにするためにも早めに治療を開始する必要があります。
肛門尖圭コンジローマの治療方法
イボ状の突起の数や大きさに応じて適した治療方法を検討していきます。主に、薬物療法と外科的治療があります。
外科的治療
肛門周囲に出来たイボ状の突起を除去します。尖圭コンジローマの外科的治療には、以下の3種類があります。
- 外科的切除
メスや鉗子で突起を切除します。 - 焼灼療法
高周波電気メスで突起を焼灼します。 - 凍結療法
液体窒素を含んだ綿棒で突起を凍結、除去します。
当グループでは、主に焼灼療法や外科的治療を実施しております。再発のリスクを抑えるために、突起部分のなるべく深い所まで焼灼します。
治療中の注意
治療中は、完治するまで性行為は禁止です。また、温泉や大衆浴場、サウナなども利用を控えてください。パートナーには感染している可能性があることをしっかりと伝えて、早い段階で受診するよう勧めてください。
再発の可能性
尖圭コンジローマの治療は、眼で確認できる突起を除去できても、体内のヒトパピローマウイルスの完全除去が難しいため、再発する確立が非常に高いとされています。治療後約3カ月以内に、4人に1人が再発すると言われるほど再発率が高いのが特徴です。このため、治療後も約3カ月間は経過観察で受診継続することが大切となります。また、再発が確認された場合は、根気よく再度治療を行うことが重要です。
直腸脱
肛門から直腸が脱出してしまう疾患を、直腸脱と言います。初期段階では痛みなどの自覚症状がないため、なかなか気付くことができず受診が遅れることが多くあります。高齢の女性が発症することが多いほか、若い男性に見られる直腸脱や小児に見られる直腸脱などがあります。直腸脱が進行すると、脱出した腸が下着に擦れて出血して、そこから感染することがあります。強い痛みが現れるようになるほか、便失禁や排便困難などの症状が起こります。初めは、下着に付着した便の汚れによって気付くことがありますが、これらは内痔核などの肛門疾患でも見られる症状のため、いずれも早めに医療機関を受診することをお勧めしております。
直腸脱の症状
- 下着が便で汚れる
- 下着に血液が付着する
- 残便感がある
- 排便後もすっきりしない
- いきんだ時や歩く時に脱出が起こる
- 肛門周辺や腹部に違和感がある
- 便失禁・排便困難が起こる
- 戻しても再度脱出する
直腸脱の原因
肛門括約筋や肛門挙筋などの低下は、主に加齢が原因です。また、直腸脱は排便時の強いいきみがきっかけとなり起こることが多く見られます。このため、排便時に強くいきむ習慣がある方は注意が必要です。さらに、S字結腸の長さなどが原因で起こる若年層の男性に多く見られるタイプや、肛門括約筋などの筋肉発育不全などによって小児に起こるタイプなどがあります。小児の場合は、成長とともに改善することが多いですが、発育の段階で食事習慣や正しい排便習慣を身に着け、排便時に強くいきまないなど症状を緩和させながら成長を待ちます。
検査と診断
肛門内圧検査、排便造影検査、骨盤MRI、怒責診断、大腸内視鏡検査などを行います。確定診断を行うには、直腸が脱出している際の観察が必須です。脱出が時々ある場合は、腹圧をかけて脱出させた状態で観察することがあります。内痔核などその他の疾患の場合もあるため、脱出した状態をチェックします。なお、確定診断には、肛門括約筋の収縮力低下も確認します。
直腸脱の治療方法
主に、外科手術治療を行います。脱出が少ない場合は、経肛門的手術を用います。また、脱出が大きく5cm以上ある場合は、全身麻酔を行う経腹的手術を行います。直腸脱は高齢の女性に多く見られるため、再発率をはじめ年齢や全身の状態を考慮して治療方法を検討していきます。
再発について
肛門括約筋機能は、手術治療によって改善できます。ただし、加齢が原因で括約筋機能が低下している場合は、手術治療を行っても再発する恐れがあります。このため、手術治療を検討する際は、再発するリスクを考慮して検討する必要があります。なお、手術後は食事習慣や排便習慣を改善したり、強くいきまないように努力したり再発防止を心がけます。また、術後は括約筋の筋力トレーニングを行い、直腸の脱出を防ぎます。
肛門掻痒症・肛門周囲炎
肛門掻痒症は、内痔核・切れ痔・痔ろうが原因で起こります。痔によって生じる分泌液が皮膚に触れることで皮疹を起こします。痒みやかぶれなどの症状が現れます。肛門周囲の皮膚が弱いことや、汗や分泌液によるかぶれ、女性の場合は陰部のカンジダ炎が影響することがあります。
肛門周囲膿瘍
肛門の周囲に膿が溜まった状態で、強い痛みや発熱、熱感、腫れの症状が現れます。膿が排出しようとトンネル(瘻管)を形成すると、痔ろうになります。膿が体外に排出されると、諸症状は解消されます。
単純性ヘルペス
ヘルペスウイルス感染によって起こります。肛門の周囲に多くの水疱が現れ、強い痛みが生じます。一度感染すると、完治しても体内にウイルスが潜伏しているため、疲労やストレスなどで抵抗力が低下すると再び発症を繰り返します。
毛巣洞
尾てい骨周囲の皮膚下に毛が入り込んで、細菌が増えることで膿が溜まってしまう状態を毛巣洞と言います。毛深い男性に多く発症が見られます。治療は、手術治療を行います。
乳児痔ろう
乳児の痔ろうは、一般的な痔ろうと異なり自然治癒する場合が多くあります。ただし、稀にクローン病を併発していることがあるため、気になる場合は速やかに医療機関にご相談ください。