なぜ胃潰瘍の診断には胃カメラが必要なのか?医師が解説

胃潰瘍や十二指腸潰瘍という言葉を耳にしたことはあるとは思いますが、どのようなご病気か詳しくご存じでしょうか?

胃が痛くなるご病気・胃に穴が開いてしまうご病気・血を吐くことがあるなどを思い浮かべるかと思います。

一昔前は多くの方が胃潰瘍になると、現在と異なり治療法がなかったため胃の手術が必要となることもありました。ご親族の方で、「胃潰瘍で胃の半分を切った」など耳にしたことはありませんか?

胃の手術まで至った症例も昔は多くありましたが、現在は手術などほとんどしません。なぜなのでしょうか?そんな疑問に答えつつ、胃潰瘍の話を症状から治療まで詳しく解説したいと思います。

1-1、胃潰瘍とは

 

胃潰瘍とは、胃の内側の粘膜が欠損した状態で、いわゆる消化管粘膜が傷ついて深く凹んでしまう疾患です。腹痛を感じる場合や、ある程度深くなると、胃壁の血管が剥き出しになり、そこから出血することがあります。

胃酸を含め、消化液は食べ物を溶かすため、非常に強い化学物質ですから、放置しておくと、胃や腸に穴が開く可能性もあるわけです。万が一、消化管に穴があき、腹膜炎になると致命的な状態になりかねません。

 

1-2 、胃潰瘍の症状について

 

胃潰瘍になると、胃の痛み、不快感、吐き気を感じます。また、出血のため、黒色便を認めることがあります。 出血量が多くなると、吐血することがあります。潰瘍が深くなり、胃に穴が開いた場合は、腹膜炎になり、非常に激しい痛みを感じます。

一般に胃潰瘍の場合は食事中に症状が起こりやすいとされており、十二指腸潰瘍は特に空腹時や就寝中に痛みが出やすいとされています。

2章、消化管潰瘍の原因

2-1 、胃潰瘍の原因について

なぜ胃の粘膜が傷ついてしまうのでしょうか?

胃は、食べ物を貯留させ、消化させて食べ物を腸へ送る機能があります。胃から産生される胃酸は、固形物を溶かす強い酸です。胃の分泌液が胃酸だけでは、胃自体も溶けてしまいます。胃粘膜には、胃酸に負けない保護粘液やアルカリの防御液が分泌されています。

消化液である胃酸とアルカリの防御液や保護液のバランスが崩れてしまうと、胃粘膜が傷ついて潰瘍が形成すると言われています。

胃潰瘍の原因は主に下記のものがあります。                            

①ピロリ菌の感染

②ロキソニンやアスピリンなど痛み止め

③ストレスや喫煙

④アルコールや刺激物の過量摂取

⑤癌

ピロリ菌の感染

胃潰瘍の一番の原因は、ヘリコバクター・ピロリ菌(詳細については、原田先生のブログ記事「ピロリ菌を除菌するとどうなるの?除菌後の本当の話し」を参照ください)による感染です。

ピロリ菌が胃に感染すると、消化液である胃酸とアルカリ・粘液保護液などの防御因子のバランスが崩れます。その結果、炎症により粘膜が荒れてしまうため、潰瘍や癌ができやすくなっていまいます。

胃潰瘍の原因が、ピロリ菌の場合は、潰瘍治療に加えてピロリ菌の除菌治療を行います。ピロリ菌の除菌治療を行うことで、胃潰瘍の再発を大幅に減らすことができます。

図に示すようにピロリ菌を除菌しなかった場合は、胃潰瘍の再発率は65〜85%にも及びます。除菌した場合には、潰瘍の再発率は1~2%まで低下すると言われています。

いかにピロリ菌が潰瘍の再発に対して影響が強いかがわかります。胃潰瘍の診断を受けた方は必ずピロリ菌のチェックを受けられることをおすすめします!

 *消化性潰瘍ガイドライン2020より抜粋

ピロリ菌の感染による潰瘍の場合は、胃体部(胃の真ん中あたり)にできやすく、慢性的な長期経過で発症するため、潰瘍が深くなり、出血も起こりやすいです。 吐血や黒色便などを起こしやすいとされています。

ロキソニンやアスピリンなど痛み止め

次に原因として多いのが、ロキソニンなどに代表されるNSAIDs (非ステロイド性消炎鎮痛薬)と呼ばれる薬です。

胃粘膜はPG(プロスタグランジン)という物質を介して、粘膜保護液の分泌を促します。ロキソニンはそのPGを著しく阻害してしまい保護液の分泌に影響を及ぼします。保護液が出ない状態で強い胃酸を浴びると、胃粘膜が胃酸から直接攻撃を受けて潰瘍ができてしまいます。

ロキソニンなどの痛み止めは、ドラッグストアでも気軽に購入できるお薬です。腰痛や頭痛薬として服用が多くなってしまうと、胃潰瘍のリスクが高くなりますでの気を付けていただく必要があります。

骨折で整形外科に入院されている方が痛み止めの薬の使用後に潰瘍となり、時には吐血といって血を吐いてしまったり便が黒くなったりといったこともあり得ます。

脳梗塞や心筋梗塞など血栓症を患った方が内服される抗血小板薬である「アスピリン」というお薬もNSAIDsの一種で、胃潰瘍のリスクになります。

現在はプロトンポンプインヒビターという胃酸抑制効果の強い薬と併用することもあるため、アスピリン潰瘍も非常に少なくなりました。

ロキソニンやアスピリンなどの薬剤性潰瘍の場合は、前庭部という胃の出口側にできやすいと言われています。急性期の経過で浅い潰瘍ができやすいという特徴があります。浅い潰瘍の場合は、症状は胃痛のみの場合が多く、出血の頻度はそこまでありません。

ストレスや喫煙

ストレスや喫煙に関しては、胃を循環する血流が低下するためと言われています。血流の低下によって胃を保護する粘液分泌が減少することで胃潰瘍の原因となります。

病院の手術後や集中治療室や、脳梗塞罹患後などもストレスや胃の血流低下により胃潰瘍になりやすくなります。

アルコール

アルコールに関しては、大部分は胃から吸収されますが、傷ついた粘膜にアルコールが当たると、粘膜が損傷され潰瘍になります。

これはイメージしやすいですね。香辛料やカレーなどスパイスが効いたものも胃酸過多になるため、潰瘍ができやすいと言われています。

実際は、①〜④の原因の複数が絡み合うことで、発症する方が多いです。

癌も同様に潰瘍形成する場合が多くあります。

癌性潰瘍は非常に重要なポイントなので、下記で詳しくお話します。

2-2 、診断方法について

基本的に胃潰瘍は、胃カメラ(胃内視鏡検査)で診断します。

腹部超音波やCT検査でも消化管の肥厚として認識できます。 消化管造影などでも潰瘍は診断できますが、それらの場合でも精査のための確定診断や組織診断のためには胃カメラは必須となります。

組織検査(生検)について

消化性潰瘍の診療で注意しないといけないのが、癌による潰瘍です。癌は、通常の粘膜を破壊しながら増大していき、進行癌になると潰瘍を形成することが多いです。

胃潰瘍などの消化性潰瘍を見つけたら、必ず癌の可能性があるかどうか評価する必要があります。潰瘍の形状や辺縁の微細構造を内視鏡で見ることで、ある程度の推測は可能ですが、診断を確定するためには組織検査を行います。

内視鏡診断時に潰瘍辺縁の組織を一部採取し、顕微鏡でがん細胞の有無を確認します。また同様に潰瘍形成を起こすMALTリンパ腫や悪性リンパ腫という血液疾患も生検で診断可能です。

難治性の胃潰瘍の場合には

難治性で繰り返す胃潰瘍の場合には、Zollinger Ellison症候群というご病気を疑う必要があります。Zollinger Ellison症候群は、膵臓などの内分泌腫瘍によって胃酸過多の状態となるご病気です。

Zollinger Ellison症候群が疑われ胃潰瘍の再発を繰り返す場合には、造影CTやガストリンなどの血中濃度を調べる必要があります。

このように潰瘍の診療は常に発生原因を推理しながら治療する必要があります。

3章、消化管潰瘍の治療について

3-1、昔は多くの方が手術をしていた。現在は? 内服薬の劇的な進歩

 

治療としては、まず原因を断つことが必要です。

ロキソニンによる潰瘍の場合には、第一にロキソニンを中止することが最も大切です。

喫煙やアルコールの習慣がある方は、 潰瘍治療中は必ず中止するようにしてください。
仕事の過労などの場合も、同様に仕事を休み、ストレスを和らげることも胃潰瘍治療には非常に大切です。
胃潰瘍は、プロトンポンプインヒビター(PPI)ボノプラザン(タケキャブ®といった胃酸抑制薬を投与することでほぼ治癒を期待できます。

胃酸抑制薬の登場によって消化器領域の内科治療は革新的な進化を遂げました。一昔前は、一度潰瘍ができてしまうと潰瘍に降りかかる胃酸を抑えることができず、悪化すると胃に穴が開いてしまうことでお腹に炎症(腹膜炎)が起こり命に関わることがありました。そのため胃潰瘍がひどい場合には、手術を行い胃を切除することもありました。

しかしながら時代とともに、

ヒスタミン受容体2ブロッカー(ガスター®

→ プロトンポンプインヒビター(タケプロン®や ネキシウム®など)

→ ボノプラザン(タケキャブ®

といった胃酸抑制効果の強い薬が誕生し、胃潰瘍の治療も手術せずに内服のみで治る時代になりました。

3-2、入院治療が必要な場合について

下記のような場合には、入院加療が必要となることがあります。

①出血性潰瘍

②消化性潰瘍による穿孔・腹膜炎

③繰り返す潰瘍による狭窄

それぞれについて解説したいと思います。

出血性潰瘍

潰瘍がある程度深くなってしまうと、胃の壁の中の血管が剥き出しになり出血してしまうことがあります。

出血を認める場合には、内視鏡的止血術が必要で、出血部の血管に対して熱による焼却止血や金属の小さなクリップによる止血処置を行います。数日は、絶食して点滴をする必要があるため、入院の上で治療が必要になります。

出血により貧血が強い場合は(Hb 7.0 g/dl程度が目安)、めまいやふらつきを感じやすくなります。貧血が進行している場合には、輸血が必要となることもあります。近年、脳梗塞や心筋梗塞を発病され、血液をサラサラにする抗血栓薬を内服される方が増えており、出血性潰瘍を診察する機会は少なくありません。

内視鏡写真:噴出性の出血性潰瘍

消化性潰瘍による穿孔・腹膜炎

潰瘍が深くなると、胃や十二指腸に穴が空いてしまうことがあります。これを穿孔(せんこう)と呼びます。

潰瘍の合併症の中で、最も重症なのが穿孔です。本来無菌である体の中に不潔な食べ物や強い胃酸が流れてしまいお腹に炎症(腹膜炎)が起こってしまいます。

腹膜炎では、お腹に激しい痛みが起こり命に関わることがあります。腹膜炎と診断された場合には、緊急手術が必要となることがあります。とくに壁の薄い十二指腸潰瘍で腹膜炎は起こりやすいと言われています。

繰り返す潰瘍による狭窄

潰瘍は粘膜が治る過程で、繊維化が起こり、消化管の壁も固くなり変形していきます。

それが繰り返し起こると、消化管の狭窄が起こり、食べ物が通過しなくなる場合があります。このような場合には入院をして内視鏡を用いた治療が必要になります。

胃の出口や十二指腸などは、内腔がもともと狭いため狭窄あ起こり食べ物が通過しなくなってしまいます。狭窄が起こった場合には、内視鏡を使ったバルーン拡張術という方法で狭窄部分を広げる治療を繰り返し行う場合や、手術が必要なことがあります。

3-3、治療終了の目安は。再発の可能性について

 

基本的に活動性潰瘍の場合、胃潰瘍で8週間十二指腸潰瘍で6週間を目安にプロトンポンプインヒビターやボノプラザンといった胃酸抑制薬の内服を続ければ、潰瘍は閉じて治癒を期待できます。

治療のポイントとして胃潰瘍は非常に再発しやすいことです。下記のような場合には再発をしてしまうことがあり得ます。

・潰瘍の傷が治癒していない状態で、痛み止めを開始したり喫煙・暴飲暴食をしてしまう場合

・胃酸抑制剤などの胃薬を自己中断してしまう場合

処方された胃薬はかならず一定期間飲み切ることが重要です。

胃潰瘍の診断を受けた場合には

2ヶ月程度内服を続け、治療終了の確認のため再度内視鏡検査を受けることが推奨されます。それまでは、タバコや飲酒、刺激物や脂質の高い食事は控えることが重要です。

患者様の中には、お薬をきちんと内服して規則正しい生活をしても潰瘍を繰り返す方もいらっしゃいます。原因のわからない潰瘍を特発性潰瘍といいます。ガイドラインにおいて、再発した潰瘍の原因が不明の場合には、胃酸抑制薬を長期的に予防的内服とすることが推奨されています。

4章、胃カメラ検査の追跡の重要性

 

4-1、実は胃がんだった!?侮れない胃潰瘍。

消化性潰瘍の診断で重要なポイントとして、癌性の潰瘍かどうかが非常に大切です。

良性のいわゆる胃潰瘍は粘膜が欠損した状態で起こりますが、癌もまた同様に粘膜を徐々に破壊しながら始まり、徐々に潰瘍を形成します。

多くの場合は、内視鏡で良性および悪性の推測はある程度は可能です。癌であれば潰瘍の辺縁が不整な微細構造(びさいこうぞう)や不整な血管が出現します。進行すれば隆起面が高くなり、周囲の粘膜を巻き込み、消化管の壁が伸びず、硬さをもった外見となります。

下記の写真は胃癌による潰瘍です。

内視鏡写真:胃の出口付近の進行胃癌

この写真は進行癌のため、癌であることはほぼ明らかな状況で、手術のため外科手術の可能な病院へご紹介させていただきます。

中には、内視鏡写真のみでは良性か悪性かどうか判定するのは、非常に難しいものがあります。専門医でも間違う症例に出会うこともあり得ます。

下写真は、胃に潰瘍性の病変を認めますが、A・Bどちらが良性でどちらが悪性なのでしょうか?

図A

図B 

答えはAの潰瘍は悪性潰瘍(胃癌)で、Bの潰瘍は良性潰瘍なのです。

Aの潰瘍は比較的小さく、辺縁の隆起も低めで、良性の可能性を考えましたが、縁や潰瘍底に凹凸があり、癌も否定できない状況でした。

生検による組織診断の結果、胃癌の診断でした。癌が潰瘍を形成した場合、がん細胞が胃壁の血管やリンパのある層まで浸潤する場合が多く、リンパ節切除も必要となります。そのためこの写真の場合には、外科的手術が必要となりました。

Bの潰瘍は非常に大きく、硬さのある潰瘍で、不整で盛り上がった辺縁の所見から癌が強く疑われました。しかし、複数回施行した生検組織の結果は良性潰瘍でした。その後、胃酸抑制薬の内服により2ヶ月後の内視鏡検査で完治したことを確認できました。

4-2 、治療2ヶ月後目安に、胃カメラ検査を受けることが重要

 

癌か否かの診断は内視鏡写真の判断だけでは、非常に難しい症例があります。基本的には、潰瘍は生検による組織診断が推奨されます。しかしながら、組織検査で良性と診断されたからと言って、100%癌ではないとはいうことができません。

癌ではないと確実にする必要があります。そのためには、約2ヶ月の胃酸抑制剤内服後に必ず胃カメラを行わなければなりません。これは必ず行う必要があります。

万が一、担当の医師から2か月後の胃カメラの提案が無かった場合は、担当の医師を変えることが賢明です。それくらい重要なこととお考え下さい!

5章、まとめ

胃潰瘍のまとめは、以下のようになります。

・症状は、胃の痛み、不快感、吐き気、重症になると吐血や黒色便など

・主な原因は、①ピロリ菌の感染 ②ロキソニンなどの薬剤 ③ストレスや喫煙 ④アルコール ⑤癌

・治療は、原因の除去+胃酸抑制薬の内服がメイン

・出血や穿孔・腹膜炎の場合には入院治療が必要

・胃潰瘍は、再発しやすく癌の可能性もあり得る

・2ヶ月程度胃酸抑制剤を内服して胃カメラを再度行う(潰瘍治癒と癌の除外の確認) 

 

いかがでしたか。今日は胃潰瘍について説明させていただきました。

ピロリ菌が少なくなった現在でも皆様が胃潰瘍になる可能性は少なからずあります。さまざまな原因がありますが、ストレスに気をつけ、規則正しい生活を心がけましょう。体調の悪い時は無理せず、身体を休めることも大切です。

症状のある方、心配な方は是非一度 胃カメラの検査を当院で受けてみてください。

胃潰瘍・十二指腸潰瘍でお悩みの人は、ぜひ当クリニックにご相談ください。

引用:

日本消化器病学会(編):消化性潰瘍診療ガイドライン2020

Quan C, Talley NJ. Management of peptic ulcer disease not related to Helicobacter pylori or NSAIDs. Am J Gastroenterol 2002;97:2950-61.

飯島克則. Helicobacter pylori感染陰性時代の消化管疾患:胃・十二指腸潰瘍はどう変わる.日本内科学会誌 2017;106:33-8.

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