「健診でピロリ菌が陽性・・・ ピロリ菌って何かな?」
「たしか胃がんの原因になるんだったけ・・・」
会社の健康診断や区市町村の胃がん検診でピロリ菌の検査が引っかかる方は多いと思います。ピロリ菌は、日本人に非常に多くみられ胃がんの原因となる感染症です。
ピロリ菌は除菌療法といってお薬を飲むことで退治することができる感染症です。ピロリ除菌を行うことで胃がんの予防となると考えられています。
胃がんで年間4万人以上が命を失くしています。ピロリ菌を検査してピロリ除菌を行うことで予防ができる可能性があるため、ぜひピロリ除菌の意義について本記事を読むことで知っていただけたらと思います。
目次
1章、ピロリ菌と胃がん
ピロリ菌は、世界人口の約半分の胃に感染していると考えられており、胃がんを発症させる感染症です。日本においては、51.7%と人口の約半分がピロリ菌に感染しているのではないかと報告されています。
ピロリ菌は、WHO関連機関であるIARC(International Agency for Research on Cancer)により胃がんの発がん要因であると正式に認定されており、胃がんの約89%はピロリ菌感染が原因であると考えられています。
胃がんは、世界においてがんの中で3番目に多いがん疾患と言われており、世界における胃がんの半分以上は、日本・中国・韓国の3つの国から発生していると言われています。いかに我が国において重要ながん疾患であるかということが分かります。
胃がんと非常に関係の深いピロリ菌に関して解説していきたいと思います。
1-1、ピロリ菌と胃がんの関係
なぜなら、ピロリ菌の感染によって胃に様々な変化が生じ、結果として胃がんになってしまうのです。
動物実験などにおいてもピロリ菌と胃がんの関係が密接にあるということが証明されていて、ピロリ菌を除菌することで胃がんの発症を減少させることができると多くの報告があります。
しかし実は、ピロリ菌を感染しているからといって全ての人に胃がんが発症するわけではない、ということも事実です。
とはいえ、ピロリ菌は最悪の場合胃がんの原因となるリスクを持っているものなので、十分に注意して対処していくことをおすすめします。
胃がんリスクを高めるCagA
ピロリ菌は、CagA(キャグエー)というたんぱく質を作り出します。このCagAは、胃がんの発症のリスクを高めるたんぱく質であると考えられています。CagAには、東アジア型CagAと欧米型CagAという2種類が存在します。
しかしながら沖縄地方では、東アジア型CagAのほかに欧米型CagAを有するピロリ菌の感染が混在していると報告されています。沖縄地方では、本州と比べ胃がんの発症率が低いとされており、欧米型CagAの混在がその一因である可能性があります。
胃がんリスクを高める生活環境とピロリ菌
胃がんの原因としては、ピロリ菌の他に遺伝子異常やストレス・加齢・発がん物質の暴露などのリスク因子があると考えられます。これらの因子は、ピロリ菌感染と複雑に関係し胃がん発症に関わっていると考えられています。
ピロリ菌感染による胃酸低下
ピロリ菌が胃に感染していると、胃粘膜には萎縮という変化が起こります。正常な胃粘膜に萎縮が進むと胃酸の産生が減少してしてきます。胃酸が低下すると胃内の環境が変化をしてしまいます。
胃にはピロリ菌以外にも多くの常在菌と言われる細菌が存在しますが、胃酸低下による胃内環境の変化により胃内細菌叢(胃内マイクロバイオータ)の異常な増殖が認められることがあります。この胃内細菌叢の変化が胃がんの発がんに関係している可能性があると言われています。
胃がんリスクを高めるニトロソ化合物の発生
ニトロソ化合物とは、亜硝酸塩がアミン類と反応することで作り出される発がん性物質です。亜硝酸塩は、ハムやソーセージなどの加工肉や明太子などに使用されていることが多いです。アミン類は、普段我々が食べている食事に含まれています(例:発酵食品、海産物の加工品など)。
胃内の胃酸低下により胃内細菌叢の変化が起こると、硝酸還元酵素が増加して発がん性の高いニトロソ化合物が発生すると考えられています。ニトロソ化合物が多く産生されることで胃がんの原因の可能性があります。
1-2、ピロリ菌と胃粘膜の変化
慢性的に胃炎が起こると、以下のような変化が胃の粘膜に起こる可能性があります。
・萎縮性胃炎(いしゅくせいいえん)
・腸上皮化生(ちょうじょうひかせい)
・鳥肌胃炎(とりはだいえん)
内視鏡検査の際には、胃がんのリスクを選別するために上記の萎縮性胃炎・腸上皮化生・鳥肌胃炎は非常に重要なキーワードとなる所見です。
これらは内視鏡検査を行うことで評価を行うことが可能です。内視鏡検査以外では、胃X線検査でも胃粘膜の評価が可能です。血清PG(ペプシノーゲン) 濃度からも胃粘膜の胃炎の状態の推測ができます。
ここからは、それぞれの胃粘膜変化について解説していきたいと思います。
萎縮性胃炎(atrophic gastritis)
ピロリ感染により慢性的な胃炎が持続すると胃粘膜に炎症細胞という炎症を引き起こす細胞が増加します。この胃粘膜の炎症の持続により、結果として胃の体部という部位に萎縮という変化が起こります。
上の内視鏡画像は、典型的な胃粘膜の萎縮の像です。白色調の粘膜と発赤した粘膜が混じっています。
一方正常の胃粘膜は、上の内視鏡画像のように白色の粘膜は認められず粘膜表面はつやつやとしています。
萎縮性胃炎が進行すると、胃酸の分泌が減少してきます。これは胃粘膜の萎縮により正常な胃粘膜の機能が低下することで胃酸の産生が減少することで起こるためです。
胃酸低下が起こると、下記のような症状が起こります。
・胃痛
・胃もたれ
・胃部不快感
・げっぷ
以上のような症状がある方は、ピロリ感染による萎縮性胃炎がある可能性があります。
一度ピロリ菌検査や胃カメラを受けることをお勧めします。当院での検査予約は下記より可能です。
萎縮性胃炎で最も気を付けなければならないことは、
ということです。
先ほど萎縮粘膜で紹介した内視鏡画像では、実は胃がんが隠されていました。上の内視鏡画像では白い粘液が付着した部分が胃がんなのです。インジゴカルミンという液体を胃粘膜に散布すると、赤味の強い出血する像が認められます。粘液のあった部位で、組織を採ると胃がんの診断となりました。
胃粘膜の萎縮の進行度合いと胃がんにも関係があると言われています。胃粘膜の萎縮の状態により胃がん発生のリスクは以下のようになると報告されています。
胃粘膜萎縮 | 軽度 | 中等度 | 高度 |
---|---|---|---|
胃がん発生率(年率) | 0.15 % | 0.29 % | 0.67 % |
ピロリ菌感染により萎縮が起こり胃がんの発生リスクが高くなることは明らかであり、ピロリ菌を除菌と言って退治をすることが胃がんの予防になると考えられています。
ピロリ除菌後の内視鏡検査で多くの胃がんが発見されていますので、ピロリ菌を除菌したとしても定期的な内視鏡検査を受けていただき必要があります。
ピロリ菌については以下の記事でも詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
腸上皮化生(intestinal metaplasia; IM)
腸上皮化生とは、胃の上皮が腸の形質を持つ上皮に変化する現象のことを言います。
実際にはどのようなものかというと、胃の前庭部という場所を中心にモコモコとした隆起が多発する胃粘膜となります。
腸上皮化生は、ピロリ菌感染による胃粘膜の慢性的な炎症により起こると考えられています。ピロリ感染がある腸上皮化生では、胃がん発生のリスクが高い(1.7~6.4倍)と報告されています。
腸上皮化生がある場合は、ピロリ除菌後も胃がん発生のリスクが高いと報告されているため定期的な検査が必要と言われています。
鳥肌胃炎(nodular gastritis)
鳥肌胃炎とは、胃粘膜が鳥肌のような均一な顆粒状(ブツブツ)の小さな隆起が密集した状態となったものです。
鳥肌胃炎は、小児や若年女性のピロリ菌が感染した胃粘膜に認められることが多いと言われています。鳥肌胃炎は、未分化型胃がん(スキルス型胃がん)のリスクが高いと報告されています。ピロリ除菌を行うことで鳥肌胃炎は改善し、萎縮した胃粘膜に変化すると言われています。
2 章、ピロリ菌から胃がんにならないための予防法
ピロリ菌のから胃がん発生を予防するためには、まずはピロリ菌に感染しているかどうかをしっかりと判定することが求められます。そして、必要な方にはピロリ除菌をすることが大事です。
2-1、ピロリ菌の検査をする
ピロリ菌の検査方法は以下のような方法があります。
・抗ヘリコバクター・ピロリ抗体測定
・便中ヘリコバクター・ピロリ抗原測定
・便PCR検査
・尿素呼気検査
・内視鏡検査(迅速ウレアーゼ試験・鏡検法・培養法)
上記の検査方法でピロリ菌の感染の可能性があるかどうかを確認します。上記の検査でピロリ菌感染の可能があると診断されたら胃内視鏡検査を行い、胃粘膜にピロリ感染性胃炎の有無を確認する必要があります。
ピロリ感染性胃炎が認められた場合には、ピロリ菌の除菌療法の適応となります。萎縮性胃炎・腸上皮化生・鳥肌胃炎が認められた場合には、ピロリ菌の検査を行い、ピロリ菌の除菌について医師と相談する必要があります。
2-2、ピロリ菌の治療をする
なぜ胃内視鏡検査をする必要があるかといいますと、
・胃カメラで除菌療法の前に胃がんが無いかどうかを診断・確認するため
・本当に感染しているかどうか分からない方全てに無制限に除菌療法を行うことを抑制するため
以上のことを考慮して胃内視鏡検査を行って、ピロリ感染性胃炎の確認をしてから除菌療法という流れになっています。ピロリ菌の除菌は、三剤併用療法という内服治療を行うことが一般的です。
ピロリ除菌療法(三剤併用療法)
ピロリ除菌療法には、1次除菌と2次除菌があります。
まず最初に1次除菌を行います。1次除菌の内服薬の内容は、
①PPI(プロトンポンプ阻害薬)もしくはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)
②AMPC(アモキシシリン)
③CAM(クラリスロマイシン)
という三剤になります。この三剤を7日間内服することでピロリ菌を除菌します。
2次除菌は、1次除菌で除菌が失敗した場合に他の薬剤に変更して再度除菌療法を行うものです。2次除菌の内服薬の内容は、
①PPI(プロトンポンプ阻害薬)もしくはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)
②AMPC(アモキシシリン)
③MNZ(メトロニダゾール)
の3剤となっています。1次除菌と同様に7日間内服して除菌を行います。
除菌療法の薬剤の中には、抗生物質があります。AMPC(アモキシシリン)、CAM(クラリスロマイシン)、MNZ(メトロニダゾール)などが抗生物質となります。
抗生物質には、軽度から重度の副作用が起こることがあるため気を付けなければなりません。どのような副作用が起きる可能性があるかというと、
・下痢
・血便
・肝障害
・急性胃炎
・湿疹などの皮膚炎
などです。軽度のものの場合は、除菌剤を7日間しっかりと飲み切って除菌をすることをお勧めします。重度の副作用である場合には、お薬を中止してすぐに医師の診察を受けるようにしてください。
ピロリ菌の除菌療法に関しては、「ピロリ菌を除菌するとどうなるの?除菌後の本当の話し」でも詳しく解説しています。ぜひご参考にしてください。
3章、ピロリ菌と胃がんに関するQ&A
Q1、ピロリ菌に感染しなければ胃がんにならないのか?
ピロリ菌の感染は、胃がん発生のリスク因子です。一方、ピロリ菌が感染していない未感染胃粘膜の場合にも胃がんが発生することがあります。
ピロリ菌未感染の胃粘膜にできる胃がんは、胃がん全体の1%程度と言われています。ピロリ菌未感染の胃がんは、未分化型胃がん(スキルス型胃がん)が多いと言われていますが、顔つきの良い分化型の胃がんも発生します。
ピロリ菌未感染では、どちらかというと顔つきの良くない未分化型胃がんが発生することが多いため、胃の症状がある方や節目節目の年齢(40歳・50歳・60歳)といった時期に胃内視鏡検査を受けることをお勧めします。
Q2、ピロリ菌を除菌した後は胃の検査は不要なのか?
ピロリ菌を除菌したとしても胃がんの予防効果は限定的と報告されています。報告によるとピロリ除菌後の1347人を2.55年間経過を追跡したところ、140人(10.39%)に胃がんが発見されたとされています。10%以上に除菌後の胃がんが発見されたということであると見逃すことのできない数字です。
現在日本では、年間約150万人ほどの人が除菌療法を受けていると言われています。今後除菌後の胃がんが増えてくるということが十分に考えられます。
ピロリ除菌後の胃がんの特徴としては、内視鏡の診断が非常に難しいということです。除菌後の内視鏡の観察では、丁寧な検査が必要となります。また、画素数の高い最新の内視鏡スコープでの検査が望ましいです。
当院では、最新のオリンパスのスコープであるGIF-XZ1200を導入して、除菌後の胃粘膜の観察を丁寧に行うようにしています。
GIF-XZ1200に関しては、設備・医療機器にてご確認ください。
ピロリ除菌後の胃がんに関しては、「ピロリ菌を除菌するとどうなるの?除菌後の本当の話し」でも詳しく解説しています。ぜひご参考にしてください。
Q3、高齢者の場合にピロリ除菌をするべきなのか?
高齢者の方の場合、幼少期にピロリ菌に感染して何十年も胃粘膜の炎症が持続した状態となっていますので、除菌をすることのメリットが低いと考えられます。また、除菌をしたとしてもその後の内視鏡検査が必要となります。
高齢者で除菌をお勧めしない最大の理由としては、副作用の問題があります。除菌後には胃酸の産生が増加するためある一定の確率で胃酸過多となる方がいらっしゃいます。胃酸が増えることで逆流性食道炎となるケースがあります。
高齢で逆流性食道炎になる方の中で、胃酸が肺に流入してしますケースがあります。このような場合には、いわゆる誤嚥性肺炎となってしまい命に関わることがあります。高齢者の場合は、むやみに除菌療法を行うことはお勧めできません。
Q4、ピロリ菌は他の病気の原因となるのか?
ピロリ菌の感染には、胃炎や胃がんの他に下記のような他のご病気の原因となることがあると言われています。
・胃潰瘍
・十二指腸潰瘍
・胃MALT(mucosa-associatedlymphoid tissue)リンパ腫
・機能性ディスペプシア
・特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
などのご病気の原因となることがあります。また、糖尿病やアルツハイマー病との関連もあるのではないかと報告もされており、人体にとって重要な感染症の一つと考えられます。
まとめ
今回は、ピロリ菌と胃がんの関係について解説しました。ピロリ菌と胃がんについては、以下のポイントが重要なこととなります。
ピロリ菌感染は胃粘膜の変化を起こす
胃粘膜の変化により萎縮性胃炎・腸上皮化生・鳥肌胃炎などが起こる
萎縮性胃炎・腸上皮化生・鳥肌胃炎は胃がんのリスクとなる
ピロリ菌の除菌は胃がん予防となる
ピロリ菌を除菌しても定期的な内視鏡検査が必要である
ピロリ菌が未感染でも胃がんができる可能性がある
以上のポイントを理解して、ピロリ菌の検査結果に対応していただければと思います。
当院では、ピロリ菌に関する消化器専門外来を毎日行っています。ご気軽に消化器専門外来でご相談いただけたらと思います。
・Kalkan Ç, Soykan I. Poly autoimmunity in autoimmune gastritis. Eur J Intern Med 2016; 31: 79-83.
・Coker OO, et al. Mucosal microbiome dysbiosis in gastric carcinogenesis. Gut 2018; 67: 1024-1032.
・Kamada T, et al. Case of early gastric cancer with nodular gastritis. Dig Endosc 2004; 16: 39-43.
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